4点の重要要求項目について回答求める
交渉では、まず笠見局長から佐野課長に別記要求書を手交し、「概算要求期を迎え、消防行政にかかわる点について申し入れをしたい。別紙要求書で要求事項を示しているが、本日はとりわけ次の点について話を伺いたい」として、次の重点要求事項について回答を求めた。
(1) 消防職場は、24時間勤務体制下における職場環境から、日常的にもストレス要因を訴える職員は少なくない。また、災害現場での職務中における悲惨な体験による精神的ショックは非常に大きいものがある。これらの対応としてメンタルヘルス対策の強化が必要である。ソフト面では、各消防職場でカウンセラーの配置や相談室の設置、研修体制の確立、ハード面では、休憩室や仮眠室等の充実などの対策が講じられるよう財政措置をはかること。
(2) 救急救命士の処置拡大がはかられ、包括指示下での除細動が実施されるようになった。今後のさらなる処置拡大を踏まえ、研修受講にともなう人員不足、研修の充実、救急隊員に対する指示や指導および助言をする医師の確保、医療機関側の受入れ体制の基盤の整備などメディカルコントロール体制を整備するため、関係機関とともに積極的な財政措置をはかること。
(3) 「消防力の基準」における人員の基準における充足率は、8割に満たない状況にある。このため「消防力の基準」の全市町村到達にむけて積極的な財政支援措置をはかること。また、改定が予定される「消防力の基準」の中に、救急隊員の専従化や激増する救急需要への対応、専門予防要員の配置、施設面の充実などについて対応しうるよう位置付けるとともに、積極的な財政支援措置をはかること。
(4) 消防組織法が改正され、緊急消防援助隊は、国の財政負担のもと派遣されることとなったが、財政負担の範囲は政令で定められることになっている。政令で定める範囲の明確化とともに、派遣する消防車両の購入・維持管理経費、派遣される職員の人件費・活動経費、職員の派遣により勤務シフトの変更を行う場合の時間外勤務手当、派遣職員の公務災害補償費など派遣に関するすべての経費について財政措置をはかること。
佐野総務課長の回答
これに対して、佐野課長は、概ね以下の通り回答した。
(1) メンタルヘルス対策については、消防職員のみならず、地方公共団体の職員全体にわたる課題でもあり、多くの地方公共団体で取り組みが行われているところであるが、今後とも、総務省本省と連携して、情報交換など必要な支援に努めてまいりたい。
いわゆる惨事ストレス対策については、消防庁として調査研究を行い、各消防本部等に望まれる対策の在り方を報告書として取りまとめ、本年3月に、全国の消防本部をはじめ、消防署や消防出張所まで、計1万3000部を配布している。さらに、本年度より、大規模な災害や多くの死傷者を生じた災害の発生に際して、消防庁として、現地の消防本部に対し、精神科医等の専門家を派遣する制度を発足させたところであり、今後とも、惨事ストレス対策の推進に努めてまいりたい。
また、交替制勤務に従事する職員にとって、休憩室や仮眠室等の環境整備は重要な課題であると認識している。消防庁としては、消防本部等の実情を踏まえ、適切な財政措置が講じられ、一層の勤務環境の充実がはかられるよう努めてまいりたい。
(2) 消防庁と厚生労働省が共同で設置した「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」の報告書が昨年12月に取りまとめられ、本年4月から包括的指示下での除細動実施が可能となり、平成16年7月を目途に気管挿管の実施、研究・検証結果によっての薬剤投与等、今後更なる処置範囲の拡大が控えている。これら処置範囲の拡大に関してはメディカルコントロール体制の構築が前提とされており、消防庁では厚生労働省とも連携し、各自治体および関係団体等に対して、メディカルコントロール体制の整備充実をお願いしている。
メディカルコントロール体制構築のための経費については、所要の地方交付税措置を実施しており、平成15年度においても措置額を増額したところである。
救急業務の充実強化については、今後とも、関係機関との連携をはかりながら、メディカルコントロール体制の整備・充実が推進されるよう必要な財政措置について適切に対処してまいりたい。
(3) 「消防力の基準」は、市町村が適正な規模の消防力を整備するにあたっての指針として位置づけている。消防庁としては、市町村がこの基準を参考として、消防ポンプ自動車をはじめとする消防施設等を整備するために必要な消防補助金について、各年度の予算において所要額の確保に努めてきたところである。
また、これまでも、救急車両の整備等に要する経費や立入検査強化のための予防要員の増員に要する経費に対して、普通交付税措置の充実をはかってきている。
一方、「消防力の基準」については、平成12年に改正を行ったものであるが、昨年来、地方分権改革推進会議の意見や消防審議会の答申などにおいて、さらなる見直しが提言されている。これらを受けて、消防庁としては、住民の期待や消防を巡る各種ニーズに応えるため、平成16年度中を目途に見直す考えである。見直しに当たっては、消防機関等の意見を踏まえた上で、十分な検討・議論が必要と考えている。
なお、新しい基準が示された後は、市町村においては、これを指針として、地域の実情を踏まえつつ、自らが必要と考える消防力の整備をはかっていくことになるが、消防庁においても所要の財政措置を講じるよう努めてまいりたい。
(4) 市町村は、当該市町村の区域における消防責任を有する(消防組織法第6条)が、災害の大規模化や広域化にともない、自らの消防力のみをもってしては対処困難な場合、消防組織法第21条に基づく市町村の消防相互応援や、第24条の3に基づく消防庁長官の求めによる消防の広域応援により対応している。また、従来、広域応援を受けた場合には、原則としてそれに要した費用については受援側が負担するとされていたところである。緊急消防援助隊は、阪神・淡路大震災の教訓をもとに、全国の消防機関相互による広域応援体制として創設されたものであるが、東海地震等の大規模地震の切迫性および毒性物質の発散等の特殊災害対策の必要性から、本年6月の消防組織法の一部改正により、従来要綱上の組織であった緊急消防援助隊を法律に位置づけるとともに、東海地震等の二以上の都道府県におよぶ大規模災害や毒性物質の発散等の特殊な災害について、全国的観点から消防庁長官が出動を指示できることとし、併せて国の指示を受けて出動した緊急消防援助隊の活動により増加し、又は新たに必要となる経費については、国が負担することとしたものである。
活動経費の国庫負担金の具体の範囲については、政令で定めることとしているが、指示を受けて出動した緊急消防援助隊に要する経費のうち、隊員の特殊勤務手当、時間外勤務手当や旅費、燃料費などを予定しているものである。なお、緊急消防援助隊は、消防の応援等を全国的な観点から迅速かつ効率的に行うための仕組みであることから、一定の場合、消防庁長官の指示に基づき出動することもあるものの、全体として地方公共団体の広域応援として行うものであり、隊員は、地方公務員として活動している。したがって、公務災害補償については、地方公務員災害補償法の適用がなされるものである。
また、緊急消防援助隊に係る車両等の施設・設備については、「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」に基づき、その整備費について国庫補助を行うこととしているものである。維持管理経費については、指示に基づき出動した場合の燃料費等について、別途国庫負担金の対象とするものであるが、平常時の維持管理経費については、自治体の負担とし、それに対して必要な地方財政措置が講じられているものである。
回答を受け、左記の内容を要請
以上の回答を受けて、自治労側は、引き続き次の内容につき重ねて要請した。
(1) 6月の神戸市住宅火災消火活動時における殉職事故をはじめとする消防職場の惨事ストレスに対して、消防庁としてどのような対応策を講じてきたのか。また、各消防本部においては、講じるべき処置について周知されているのか。惨事ストレスへの対応策として、自治体当局による消防への支援協力体制の確立とあわせて、要求書で示したようにソフト・ハード両面にわたる具体的財政措置が講じられるべきであると考える。
(2) メディカルコントロール体制の充実・強化にむけた取り組みに関する今後の見通しと、患者に対する十分な対応についてどのように考えているか。また、職員の患者への対応能力向上についてどのように考えているか。
(3) 15万人消防職員の現行体制についても、消防力の基準に照らし合わせると、8割の充足率にも達しないのが現状である。
一方、地方財政危機やそれにともなう市町村合併の進展などを背景として、一般の自治体の行政職については、新規採用は無く、退職不補充という状況にある。消防についてもその影響を危惧しているが、消防庁としてどのように考えているか。消防本部個別の消防力の基準に関する達成状況について把握しているか。また、消防庁としてその情報公開について考えているか。
(4) 緊急消防援助隊に関する出動にあたっては、すべて国の責任において財政負担をお願いしたい。改めて確認するが、消防組織法の一部改正で、財政負担の具体的内容については政令で定めるとあるが、その範囲と金額はどの程度想定しているか。
要請内容を受けた消防庁側の回答
これに対して、消防庁側は次のように述べた。
(1) 大規模および特殊災害等に対する惨事ストレス対策として、消防庁では、緊急時メンタルサポートチームを派遣する制度を設けることとし、5月27日、各都道府県に対して通知(消防職員の惨事ストレス対策に係る緊急時メンタルサポートチームの創設等について)したところである。通知を受けて、神戸市の事案にあっては、消防庁よりメンタルサポートの専門家を派遣した。今回のほか、これまで福岡県内の例をあわせて、2件緊急時メンタルサポートチームを現地に派遣したところである。神戸市の場合、阪神・淡路大震災の経験を踏まえて現地の体制は整備されていたことから、現地スタッフとタイアップして出勤消防隊員のケアにあたったところである。今後も場合によっては、再度、消防庁より緊急時メンタルサポートチームを派遣することも検討したい。
各市町村に対しては、惨事ストレス報告書の配布を通じて、惨事ストレスへの対応策について周知している段階であり、示された対応策を受けて、各消防本部が発生時にどう対応することにしているかまでは把握していない。まずは周知徹底が大切であり、一定の時間を置いたうえで、惨事ストレスの軽減をはかる観点から、その把握の方法について検討したい。
各消防本部と首長当局との連携については、今年3月に配布した消防職員の惨事ストレスの実態と対策の在り方に関する報告書の中でも示している。各地方公共団体のアプローチはまちまちであり、現在、周知段階であるので、消防庁としては、その実態について把握していない。また、都道府県についても、保健衛生部局を巻き込んで、市町村消防と連携するよう要請している。このことは結果として、小規模消防本部に対するフォローになるとも考えている。本来、消防職員の惨事ストレス対策については、職員を抱える消防本部の役割であると考えているが、消防庁としては、対応の難しさも考慮して、昨年に回答した助言だけにとどまらず、新たな支援の在り方として、緊急時メンタルサポートチームを設置したところである。
(2) メディカルコントロール体制の整備に係る平成15年度の地方財政措置については、前年度と比べて増額している。既に平成15年4月より医師の指示なしでの除細動が実施される一方、平成16年7月からは、医師の具体的指示の下での気管挿管の実施が予定されている。消防庁としては、このような状況をうけて、救急救命士への養成や再教育、さらには除細動や気管挿管に関する実施結果の把握などが必要であると考えており、平成16年度についても、地方交付税措置について検討していきたい。
(3) 人員の充足率については、ご指摘の通りであるが、消防庁としては、各消防本部が消防力の基準に基づき計画的な人員整備をはかれるよう、所要の財政措置を講じていく考えである。しかしながら、マクロの国の段階で消防に関する必要な財政措置を講じても、その内容を受け各地方公共団体でそのまま財政措置されるのは困難なのが現状である。議会・住民の反応や他部局との均衡を考慮すると、なかなか難しい面がある。個別の消防本部の消防力の基準に関する充足率をどう考えるかは、結局は各市町村の判断・責任に属する問題ということになる。各市町村の自治にかかわる問題であり、消防庁は望ましい水準を示せても、強制のようなことはできないし、手段もない。また、消防本部個別の消防力の基準に関する達成状況については消防庁からは出していない。情報公開を消防庁がまとめて行うことには慎重である。情報公開には意味があると思うが、各消防本部が、議会や住民との関係で説明責任をどう果たしていくかという問題である。
(4) 政令については、予算とセットにして法制上の整理を行う関係上、年末にむけて準備をし、年明けに公布する予定になる。緊急消防援助隊に関する財政負担の範囲については、先程回答した通りである。
最後に、自治労・総務省消防庁は、消防行政の充実にむけ、引き続きこのような意見交換を重ねつつ、相互に努力することを確認し、この日の交渉を終えた。
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