第67号

救急隊への後方支援の必要性・安全はわれわれの手で

高知市消防職員協議会の取り組み
 

 昨年11月の大阪市におけるJR列車事故救助にともなう消防職員殉職事故は「何でこんなことが起こるんだろう」と深い悲しみと怒りを感じました。殉職された中澤消防士長に対して、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
 二次災害を起こさないためには関係機関との連携が大切であることはいうまでもありません。しかし現場到着まではともかく、到着したその時から危険性はあるのではないでしょうか。このような危険性は列車事故に限らず、高速道路・交通量の多い国道や一般道路にも十分その危険性は存在するのです。救急隊の支援を目的としての出動・その役割の分担・取り決めなどがあれば、二次災害を防止できるのではないでしょうか。
 高知県消協では全単協を対象として(回答129単協)、高速道・一般道・線路内の各事故における救急隊の後方支援を目的とした出動の実態についてアンケート調査を実施しました。調査の結果、各事故とも同時出動を前提としている単協はごくわずかでした。また、状況把握後の救助隊・支援隊の出動は多い傾向にありますが、果たして安全だと言いきれるのでしょうか。また現場より、救急処置の高度化や処置拡大に対応しうる人員増を訴える意見が多く寄せられています。後方支援隊の出動が認められれば、安全で迅速な救急・救助活動、さらには自らが誇りを持って働き続けられる職場を確立できるのではないでしょうか。
 調査結果の中には特徴的な取り組みをしている単協・地区などがありましたが、今回は高知市消防職員協議会が取り組んでいる事例につき紹介いたします。


高知県消防局の救急支援活動に対する取り組み

1.はじめに

 高知市消防局では、2001年12月11日より、協議会の提案を受けて、特定の救急事案に「救助隊による救急支援活動」ができるシステムを導入し、試行として運用を実施しています(救助隊を編成する南消防署のみ)。
 この活動は、(1)現場で活動する救急隊員の負担軽減および二次災害の防止・安全確保、(2)救急隊と救助隊との連帯強化など総合的な消防力を強化することで、消防機関に対するニーズの拡大への対応をはかることを目的として実施しています。
 そして、この運用を通じて救急・救助活動がより一層「迅速」「的確」「安全」に遂行できるよう日頃より改善にむけて検討を重ねることで、救急業務の高度化および消防行政全体の更なる発展をめざしています。

2.救急支援活動システム運用基準

(1) 交通事故の場合はおおむね片側車線が2車線以上の道路での事故に出動する。
(2) 通常、出動指令があり、その事故内容に応じて救急および救助係長が支援出動の要否を判断する。支援出動隊は救急係長からの「支援出動必要なし」の指示がない限り、常に出動体制をとる。
(3) 高度救急出動で救急隊が3人の場合は、救助隊員数に応じて以下の方法により支援する。1.救助隊員(主に機関員)1人が出動時に救急隊へ支援補勤する、2.前述の方法で1人が指名補勤し、その者の分隊の消防車が通常走行で救急事故現場または医療機関へ駆け付け、救助等の他の出動に支障とならないように配慮する。
(4) 〔救助隊の救急支援活動(試行)にあたっての取り決めで、「支援出動は救急隊の現場到着時での要請(現場要請)を原則とする」としているが、実際には、救急隊が現場到着してからの要請では救急隊員、傷病者等の安全確保等は到底できないのが実態である。〕したがって、情報指令課からの出動指令受信時に同時出動する。

3.救急出動の現状および救急支援活動の現状

 南消防署管内の2001年中の救急出動は1587件を数え(高知市消防局全体では1万2038件・救急車両9台運用)、うち救急支援活動により救助隊が同時出動した件数は112件となっています。事故のほとんどは主要幹線道上の交通事故ですが、あくまでも南消防署管内のみの対応であり、またごく限られた道路上の事故による出動です。当然救助活動が事前に予測されるような事案ではありません。この救急支援活動における南消防署管内の救急出動件数に占める割合は(以下支援率と言う)約7%となっており、およそ14件に1件の割合で救急支援活動をしたこととなる。この活動が全市域で実施させることとなれば、おそらく支援率はこの数字を下回ることはないと思われる(支援率を7%で全体の救急出動件数に当てはめてみると約833件出動することとなる)。

4.運用効果

 試行期間中の運用効果としては、救急サービスの向上が一義的に挙げられますが、この運用により救急隊と救助隊の連携が深められ、災害対応能力の強化が期待できることも大きな成果であったと思います。
 また、特に屋外での災害事故は、傷病者や救急隊員の安全確保等、二次災害の防止に大いに役立っています。そして、高層マンションや山間地域での傷病者収容には、相当の時間と労力を要するため、救助隊員の出動により、迅速な収容が可能となります。皆様に紹介したい効果的な事例として次のようなものがあります。

(1) 交通事故の場合、救急活動の安全なエリアが確保されて、迅速・確実な救急活動ができた。
(2) 高度救急活動の場合、事故概要等その他医療機関への引継ぎの際、必要な情報の収集を依頼することで処置に集中することができた。
(3) 救急資器材および傷病者搬送を補助することにより、現場活動の時間短縮につながった。
(4) 救急隊の現場到着が遅れた場合に、先着した救助隊が傷病者の観察および応急処置を実施し、救急隊に引継ぎスムーズな救急・救助活動ができた。

5.運用実例

事例事故概要

 ○月○日23時30分頃、高知市○○通り4丁目交差点内(片側2車線;中央に路面電車の軌道有)での普通乗用車と原付バイクの衝突事故。右折しようとしていた原付バイクが直進の普通乗用車の右側前方と衝突したもの。
 現場到着時の状況は、傷病者30歳ぐらいの女性が路面電車軌道に伏臥になっており、身体の状況は、顔面がつぶれ、脈・呼吸なし、下腿変形有り。衝突場所と傷病者、および大破した原付バイクならびに普通乗用車の位置が広範囲(周囲15メートルの範囲)に離れている。現場は暗く交通量は比較的多い。現場到着時に警察はまだ現場到着していなかった。出動車両;救急車1台(3人)・救助工作車1台(5人)

処置対応

(1) 救急支援隊の現場活動
1.救助工作車の停車位置および交通整理により、傷病者および救急隊員(救急車含む)の安全確保および活動スペースの確保、2.ストレッチャー等を傷病者のところへ準備し、救急車への搬送を補助、3.現場の情報収集により、事故内容・受傷機転・関係者等の把握と救急隊員への情報伝達、4.ポラロイドカメラ・デジタルカメラにより現場状況の撮影、5.群集整理 6.関係者・機関(事故家族・警察等)への情報提供。
(2) 救急支援活動による効果
1.現場での作業人員の増強により現場滞在時間の短縮、2.安全な作業スペースの確保により傷病者の確実な観察および応急処置が可能、3.現場の情報収集(現場写真撮影および正確な受傷機転)により医師への正確な情報提供。

6.おわりに

 この活動は、まず第一に市民の立場に立って「消防機関」に今、何が求められているのかを冷静に検討し、拡大する救急ニーズに組織全体としてどのように取り組むべきかとの疑問に対して行動で示した一例です。これらの取り組みは、私たちが安心して働き続けられる職場を確保することにも通じます。しかし残念なことは、試行期間を1年以上経過して未だ組織全体の業務としての位置付けられていないことです。
 私たち高知市消防職員協議会は、この取り組みが現在および将来にむけた重大な「消防活動」の一つであるとの認識のもと、一日も早い制度の確立とともに、救急・救助活動がより一層「迅速」「的確」「安全」に遂行できる体制づくりをめざして頑張ります。
 また、我々消防職員は市町村合併・消防法改正などが近い将来実施され、これからどうなっていくのか消防行政に対し不安を感じています。地域住民や当局に対し、今後の消火・救急・救助活動・予防業務など、各分野でプロの消防職員として認められ、労働機会を確立していく運動を展開していかなければならない時期にきているのではないでしょうか。

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 この度は高知県消防職員協議会のアンケート調査にご協力いただきありがとうございました。この調査結果を活用し、高知県消協すべての単協が取り組み、地域の安全を守る制度の確立をめざします。