3点の重要要求項目について回答求める
交渉では、まず笠見局長から丸山課長に別記要求書を手交し、「概算要求期を迎え、消防行政にかかわる点について申し入れをしたい。別紙要求書で要求事項を示しているが、本日はとりわけ次の点について話を伺いたい。」として、次の重点要求事項について回答を求めた。
1. 消防職場は他の公務職場では見られない労働実態とその職場環境等から、日常的にもストレス要因を訴える職員は少なくない。また、災害現場での職務中における悲惨な体験による精神的ショックは非常に大きいものがある。これらの対応としてメンタルヘルス対策の強化が必要であり、各消防職場でカウンセラーの配置や相談室の設置、メンタルヘルスの知識に関する普及啓発及び研修体制の確立等の対策が講じられるよう財政措置をはかること。
2. 病院前救護体制の充実のため、メディカルコントロール体制の確立が必要である。また、その一環として救急救命士の処置拡大がはかられようとしている。救急隊員への研修の充実、救急隊員に対する指示や指導および助言をする医師の確保、医療機関側の受入れ体制の基盤を整備するため、関係機関とともに積極的な財政措置をはかること。
3. 「消防力の基準」が改正されたが、現在の整備状況は消防本部ごとに示された基準にほとんど到達していないのが現状である。とりわけ、人員の基準における充足率は、極めて低い状況にある。こうした実態では、増大し続ける消防行政への需要に対応しきれず、そのサービスの低下にも及ぶことが危惧される。このため「消防力の基準」の全市町村到達に向けて積極的な財政支援措置をはかること。
丸山総務課長の回答
これに対して、丸山課長は、概ね以下の通り回答した。
1. 消防庁としては、住民の生命、身体及び財産を災害から守ることを責務とし、昼夜を問わず献身的に活動されている消防職員の心の健康を確保するため、昨年度、「消防職員の現場活動に係るストレス対策研究会」を設置し、職場環境や災害現場活動での悲惨な体験に起因するストレスの実態とその対策のあり方について、調査・研究を重ね、中間報告も出したところである。
今年度は、全国の消防本部等にストレス対策に関するアンケート調査を行うこととしている。また、今年度中に研究会から最終報告書として研究成果が出る予定であり、まず正しい認識をした上で、今後、消防本部に望まれるストレス対策のあり方をまとめ、助言に努めてまいりたい。
2. 消防庁では救急救命士の処置範囲の拡大について、厚生労働省との共催により「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」を開催している。先日、中間報告書が取りまとめられたところであり、年内を目途に最終の報告が示される予定である。
救急救命士の処置範囲の拡大については、各地域においてメディカルコントロール体制が構築されていることが前提となる。今後も関係機関と連携し、メディカルコントロール体制構築を推進する。メディカルコントロール体制構築のための経費については、所要の地方交付税措置を実施しており、平成14年度においても措置額を増額したところである。
救急業務の充実強化については、今後とも、関係機関との連携を図りながらメディカルコントロール体制の構築を計画的、積極的に推進するとともに、必要な財政措置について適切に対処して参りたい。
3. 平成12年1月に全部改正を行った「消防力の基準」は、市町村が適正な規模の消防力を整備するに当たっての指針となるものとして位置付けているところである。
消防庁としては、市町村がこの基準を参考として、消防ポンプ自動車をはじめとする消防施設等を整備するために必要な消防補助金について、毎年度の予算において所要額の確保に努めてきたところである。人員の充足率については、特に小規模消防本部で課題が多い。したがって、市町村合併との整合性も確保しながら、広域再編の推進による人員の効率的な配置を基本に対応すべきと考えている。
また、「消防力の基準」の見直しに伴い、普通交付税の消防費に係る単位費用について、救急車両の整備等に要する経費を増額するなど、所要の改定が行われてきたところである。特に、平成14年度の地方財政計画において、消防法改正によるいわゆる雑居ビル等への立入検査体制の強化等の観点から、消防職員を1,098人増員している。 市町村においては、これらの財政措置等を活用し、地域の実情に応じた効率的な人員配置を行うことが必要であると認識しており、消防庁としても所要の財政措置を講じるよう努めてまいりたい。
以上の回答を受けて、自治労側は、引き続き次の内容につき重ねて要請した。
回答を受け、左記の内容を要請
1. 2002年3月に実施したメンタルヘルスに関するアンケート調査では、災害現場活動中に受けるストレスやショックに対する問題意識や体制不備についての切実な訴えが示されている。個人としての努力で問題を克服する精神論に依拠するのではなく、メンタルヘルスの知識や対応に関するリーフレットの配布や各消防学校・消防本部単位における講習会の実施が必要ではないか。
2. 救急救命士の再教育については、各消防職員の負担に依拠しているのが現状である。国・県・市町村の責任において財政負担することが必要ではないか。
また、メディカルコントロールの体制構築にあたっては、消防側の人的財政負担が過重となる一方、医師会や医療機関等との連携が十分でないという課題がある。課題解決にあたってどのように考えているか。
3. 市町村合併を中心とした広域再編の推進を通じた効率的な人員配置を行うことによって、「消防力の基準」における人員の充足率の向上をはかる方向が示されたが、消防行政に期待される需要に対応するためには現在ある現場段階の人員は引き続き必要であり、広域再編で全てが解決する訳ではない。広域再編以前の問題として、現在示されている「消防力の基準」を全消防本部で到達することが先決ではないか。
また、2001年9月1日の新宿区歌舞伎町ビル火災を受け、雑居ビルへの立入検査体制の強化をはかる観点から、予防要員として1,077人の増員が地方財政計画に示されている。この予防要員は今後「消防力の基準」として位置付けられるのか。そして予防要員増員分に対する各消防本部への配分および増員分の予算措置が講じられない場合についてどのように考えているか。
引き続き意見交換と相互努力を確認
これに対して、消防庁側は次のように述べた。
1. 労働安全衛生活動については、消防職場に対してもその充実に向けて助言要請を行っている。しかしながら、惨事ストレス対策については、その具体化に向けて今年度より消防庁内で検討を進めている。今後、必要に応じて財源措置を講じることも検討している。
2. 救急救命士の処置拡大にともなう再教育については、重大な課題であると認識している。年内を目途に「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」の最終報告書がまとまる予定である。その内容を踏まえて具体的に対応したいと考えている。
またメディカルコントロール体制構築にあたっての関係機関の連携については、各都道府県による調整が不可欠なため、消防庁としても引き続き都道府県に対して助言要請を行う所存である。
3. もちろん「消防力の基準」に到達するには、市町村合併を中心とした広域再編だけで対応できるとは考えていないが、基本方向となるものである。予防要員として地方財政計画に計上された人員が具体的に増員された場合には、「消防力の基準」内の職員としてカウントされる。
また、現在算定作業中の普通交付税において必要な経費が算入されることとなっているため、引き続き予防要員の増員がはかられるよう周知して参りたい。
最後に、自治労・総務省消防庁は、消防行政の充実に向け、引き続きこのような意見交換を重ねつつ、相互に努力することを確認し、この日の交渉を終えた。
以上
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