4. ILOと消防職員団結権問題
1972
総評ILOに提訴。
第三次公務員制度審議会答申。
 「消防職員の団結権禁止については、従来の経緯に鑑み、当面、現行制度によるものとし、今後の国際労働機関(ILO)の審議状況に留意しつつ、さらに検討するものとする。」

1973
条約勧告適用専門家委員会(6月)。
 「本委員会は、消防職員の機能が軍隊及び警察に関する条約第9条の適用によって除外されうるようなものではないと考える。本委員会は、この種の労働者に団結権が保障されるように政府が適切な処置をとることを希望する。」
結社の自由委員会第139次報告(11月)。
 「87号条約の規定が、この範疇の労働者の団結権の除外を第9条で認めていないこと、従って、専門家委員会の見解を政府に指摘すること、しかしまた、団結権と争議権とは二つの異なる事柄であり、前者は必ずしも後者を含まないことを想起する。」

1977
全国消防職員協議会結成(8月)。
条約勧告適用専門家委員会。
 「日本の消防職員の職務については、いくつかの特別な特色があるが、これらの労働者を当条約の第9条にもとづき労働組合を結成する権利から排除することを正当化するようなものであると思われず、また、団結権の承認は自動的にストライキ権をともなうものではないことが想起される。」
条約勧告適用委員会。
 「消防と警察は同一視することはできないという専門家委員会の見解に留意した。各発言はそれと異なる見解に導くものではなかった。」

1978
条約勧告適用専門家委員会。
 「当委員会は、特に、全国消防職員協議会が事実上結成されていることに留意する。この状況において、当委員会は政府に対して、再び問題となっているこのカテゴリーの労働者に団結権を与える課題を継続するとともに、これに関連するいかなる進展をも当委員会に報告するよう要請する。」

1979
条約勧告適用専門家委員会。
 「本委員会は、これまで出された本委員会のコメントに言及し、全国消防職員協議会が違法活動を行なわない限りは、その活動に干渉する意図はないとする政府のステートメント、並びにもっと全般的には政府が団結権問題をより長期的観点に立って慎重に検討を続けるとする政府のステートメントに関心を持って留意する。」

1983
条約勧告適用専門家委員会。
 「政府は、長用的展望のもとで消防職員の団結権問題の検討を継続するつもりであると述べていることに、本委員会は留意する。公務員問題連絡会議において関係当事者の意見を聞いた後に、結論を出すための検討を促進すると政府は付言している。1981年10月に政府は日本消防協会の見解を聴取し、1982年1月に消防職員の労働条件に関し当局からの説明を聴取した。総評はその意見書において消防職員の団結権問題を再度堤起し、公務員問題連絡会議によって行なわれた2回の審議は不十分であり、一部関係労働組合の意見がこれらの会議で取り上げられなかったと主張している。総評はまた、地方自治体当局が消防職員協議会の承認を拒否していると述べている。この協議会は、地方レベルにおける消防職員の自主組織であると総評は述べている。本委員会は、このカテゴリーの労働者の団結権に関して行なわれる今後の審議に監視情報の提供を続けるよう政府に要請する。」

1987
ILO条約勧告適用委員会の労働側副議長エドワード・ヒッキー氏(全米消防職員協議会法律顧問)を招聘。4月27日、平井労働大臣、葉梨自治大臣、山下総務庁長官と会見。
条約勧告適用専門家委員会。
 「委員会は、多年に渡って消防職員の団結権問題に関してコメントを行ない、このカテゴリーの労働者の職務が軍隊と警察に関する条約第9条による権利除外を正当化する性質のものであるとは考えない、という見解を表明してきた。このカテゴリーの公務員によって行使される職務は、第9条を根拠としてこれからの労働者を団結権から除外することを通常正当化するものではない、と1983年の一般調査において述べるにあたって、本委員会は、条約第9条が軍隊と警察を特にこの基本権から除外することを定めているにすぎないことを強調している。したがって、これらの職員が国の法規によって軍隊もしくは警察の一部を構成するものとして認められていない限り、他のいかなるカテゴリーの労働者をもこの権利から除外することは正常ではない。日本においては消防行政は警察行政とは明確かつ正式に切り離されたものであり、地方公務員法(52条)は地方公務員の団結権を認めながら(3項)特にこの権利を消防職員に対して否認している(5項)。他方、業務は言葉の厳密な意味における不可欠業務、すなわちその中断が国民の全部もしくは一部の生命、個人的安全ないし健康を危険に陥れる業務であると、本委員会は考察する。したがって、ストライキ権が制約もしくは完全に禁止することさえできうる、と監督機関が認めてきた業務である。以上のような諸原則と検討に照らして、本委員会は、これらのカテゴリーの労働者に対してその職業上の利益の向上と擁護のために自らが選択する団体を結成する権利を与える可能性の検討を続けるよう、政府に対してその要請を繰り返すものである。」

1989
条約勧告適用専門家委員会の見解(3月)。
 「本委員会の意見では、軍隊と警察以外のカテゴリーの労働者に対して団結権を否認することは、条約に合致することではない。しかしながら、団結権はストライキ権を必ずしも意味するものではなく、消防業務は、ストライキ権を禁止の対象としうる、厳密な意味での不可欠業務とみなされるべきことを、本委員会は再度強調する。
 当事者間での討議がその原則と本委員会によって行なわれた考察を基に継続され、消防職員の団結権問題が国内レベルで解決されるよう、本委員会は希望する。」
条約勧告適用委員会 議長集約(6月)。
1. 委員会は、本委員会で行なわれた討論、特に政府により提供された情報に十分留意した。
2. 委員会は、特に消防職員の団結権に関連し、法律と条約との間にある特定の相違について、専門家委員会が永年にわたってコメントしてきたことを想起する。
3. 委員会は、この問題についての国内協議が続けられているが、それらの協議が未だに条約の完全な適用に向けての前進を可能にするための具体的方策を導き出していないことに留意する。
4. 委員会は、代表的な労働組合との協議が強化され、条約にしたがって速やかにこれらの労働者への団結権の承認へと導かれるよう、強い期待を表明する。

1990
ILO消防職員の雇用と労働条件に関する合同会議結論(5月16日)。
 (全消協から5名が議論に参加)
  労働組合権
12. 労働者が自ら選ぶ団体を組織し、参加する権利は、結社の自由と団結権の保障の条約、1948年(87号)に従って、消防士に適用されるべきである。
13. 消防職員は、団結及び団体交渉権条約、1949年(第98号)及び便宜、労働関係(公務)条約、1978年(第151号)の規定に従って、雇用に関する反組合的差別行為に対する有効な保護を享受すべきである。
14. 交渉、調停、斡旋及び仲裁などの相互に受け入れられる紛争解決手続きがあるべきである。消防士のストライキ権が制限されているところでは、彼らの職業上の利益を擁護する極めて重要な手段の一つが否定されていることを意味するので、このような手続きはとりわけ重要である。
15. 加盟国が労働停止の際に維持されるべき最低限の緊急業務を定義する場合は、消防士労働組合代表との合意によって決定すべきである。
  雇用条件の決定
18. 消防職員と彼らの労働組合代表は、団結及び団体交渉権条約(第98号)、労働関係(公務)条約(第151号)及び団体交渉条約1981年(第154号)の規定に従って、団体交渉やその他の適切な手段を通じて、消防士の重要な雇用条件決定のあらゆる段階に有効に参加する権利を享受すべきである。
19. 消防士を"国家の行政に携わる公務員"とみなすことはできず、これを基にして第98号条約の規定から除外されてはならない。
20. 消防土労働組合代表の有効な参加のための手続きは、彼らの雇用条件に影響するあらゆる問題の決定にまで拡大されなければならない。
労働時間
28. 消防士の労働組合代表は、勤務時間並びにその編成の決定に全面的に参加すべきである。消防士の合計労働時間数は同様に厳しく、危険な職務にある他の労働者の労働時間数を超過すべきでない。
労働安全衛生
29. 消防はその性質上危険な職業である。当局並びに関係労働組合は、適切な安全規則や手続きの厳格な適用や消防署並びに装備の規則的な検査によって回避可能な危険をなくすために、合同であらゆる努力をしなければならない。一般的な安全衛生立法を適用し、さらに消防事業独自の基準を補足すべきである。
31. 一般的な安全衛生立法からの逸脱は、効果的な消防作業のために時として必要であると考えられる。事前に予見できる一般的な例外はすべて消防士の労働組合との協議並びに合意事項にすべきである。
36. 安全のあらゆる問題において、消防士の労働組合代表は政策策定及び定められた規則と手続きの実施の両面で全面的に参加すべきである。安全衛生代表は、各国の状況と慣行に従って、検査を行なう権利を持つべきであり、また彼らの任務を遂行するために必要な便宜を享受すべきである。

1991
山岸連合会長、山田自治労委員長、吹田自治大臣と政労会談(6月)。
 「2年を目標に解決策を見出す。」と合意。
以降、自治労と自治省の間で11回におよぶ定期協議。

1993
条約勧告適用委員会議長集約(6月)。
  1. 消防職員の団結権について国内法令と条約との間に不一致が存在する。
  2. 非常に短い期間に法規全体を条約に適合させるよう強く希望を表明する。
  3. ILOとの協力のためILO関係者を招聘するという日本政府の発言を確認、ILOが技術援助を提供する。

1994
(1月9日)ILOマイヤー事務局次長・ジェルニゴン結社の自由委員会部長、政府の招聘により来日。
1月13日、連合、全消協、自治労と意見交換。
 春闘時の政労会談で細川総理は「定期協議に消防庁も参加させて、早期解決に向けて協議態勢の充実を図る」と回答。
「定期協議」再開。4回協議。

1995
春闘時の政労会談で村山総理は「6月ILO総会を十分念頭において解決策を見出したい」と回答。
5月26日、後藤自治労委員長、野中自治大臣と首相官邸で会談。
消防職員の団結権問題について次の3点を基本的に合意。
  1. 各消防本部に職員の意思疎通を図るための新たな組織として消防職員委員会(仮称)を設けることとし、消防組織法を改正する。この新たな組織は、消防職員から提出された改善意見について審議し、消防長に意見を述べることとする。
  2. 地方公務員法の改正は行なわない。
  3. なお、自治大臣と自治労委員長は従来と同様に、消防職員の勤務条件などについて定期的に話合う。
 野中自治大臣の今回の合意について見解を発表し、消防職員の団結権問題そのものの協議に関する今後の取り扱いについて「労働基本権の制約に関する国民のコンセンサスの推移に応じ、更に将来において関係者間で論議されることまで否定するものではない」と述べた。
6月14日、条約勧告適用委員会労働側グループ会議(全消協代表3名参加)。
  労働側確認事項
  「今回の策は87号条約に合致するものではないが、進展のあったケースとして日本問題をサポートする。」
同日午後、条約勧告適用委員会議長集約(ゴラハン議長)。
  1. 条約の適用に向けて重要な措置がとられたことを歓迎し、合意内容を実施すること、
  2. 87号条約に合致するような方法で法制度を改正すること、
  3. 政府が進展状況を専門家委員会に報告することを求める。

1991
山岸連合会長、山田自治労委員長、吹田自治大臣と政労会談(6月)。
 「2年を目標に解決策を見出す。」と合意。
以降、自治労と自治省の間で11回におよぶ定期協議。

1996
11月21日、後藤自治労委員長、白川自治大臣との協議(1995年5月26日、消防職員の団結権問題での政労合意に基づき、消防職員の勤務条件等に関する定期協議行うとの確認による。)協議において、(1)10月1日からの消防職員委員会制度スタートにあたって、消防職員の信頼に足る委員会運営に向けた努力表明、(2)消防職員の勤務条件などに関し1年に1回協議することなどが確認された。

1997
日本政府が、消防職員委員会に関するILO報告において、(1)1997年4月現在923消防本部で消防職員委員会が設置されたこと、(2)川崎市の消防局において、職員推薦9人を含む18人委員により、1996年11月から1997年1月までに4回の委員会開会中、99件の意見が審議されたことなど消防職員委員会制度の運用開始状況の紹介にとどまった。
12月2日、榎本委員長と上杉自治大臣との定期協議。消防職員委員会の充実・定着に向けて、全国消防長主催の研修会やトップセミナーなどを通じた消防職員委員会の円滑な指導に努力するとの回答。

1997
ILO87号条約適用状況に関するILO条約勧告適用専門家委員会提出の労働側報告
全消協と自治労による消防職員委員会の運営実態調査(1997年4月から1998年3月)では、49.7%、委員会開催期間の消防本部が述べ2日以上19、複数回の委員会13など消防職員委員会の活性化により、消防職員の団結権保障への環境づくりの推進の決意示す。
日本政府が、ILO年次報告において、(1)消防職員委員会の半数が職員推薦により、委員の8割を一般職員で占める、(2)1998年3月末までに総計15,000件におよぶ勤務条件に関する意見が審議され、4割以上を実施することが適当である(この判断には拘束力はない。)などの事例を示された。
12月15日、榎本委員長と西田自治大臣との定期協議。西田大臣より「定期協議が有意義である。全国消防長主催の研修会やトップセミナーなどを通じた消防職員委員会の円滑な指導に努力する」との回答。

1999
ILO98号条約の適用状況に関するILO条約勧告適用専門家委員会の連合年次報告
「全消協と自治労による消防職員委員会の運営実態調査(1998年4月から1999年3月)では、43.4%、委員会開催期間の消防本部が述べ2日以上12。自主組織における委員会運営状況から、消防職員に団結権保障することへの環境が整いつつあると考える。」

2000
ILO87号条約適用状況に関するILO条約勧告適用専門家委員会提出の労働側報告「法施行から4年しか経過していない現時点では、詳細な報告を提出するには尚も十分な材料が揃っていない。次回のコメントの機会に詳細な報告を行う。」
ILO87号条約適用状況に関するILO条約勧告適用専門家委員会提出の政府報告
委員の構成は、2000年3月末で、管理職以外の一般職員が9割近くを占める。
1998年度および1999年度において約10,500件の勤務条件に関する意見中、約4割が実施適当である。結果として、資格取得の助成制度、休憩室の設置が進んでおり、委員会は、消防職員の勤務条件改善のために十分機能しているものと考える。
消防職員委員会制度の周知及び定着をはかるため、消防職員全員に制度のパンフレット配付。また、円滑な適用がなされるよう、各消防本部に対し助言・指導を行う。

2001
第89回ILO総会労働側報告
 「消防職員の団結権に関し、消防職員委員会が設立されたことは歓迎されるべきであり、当局と消防職員との対話状況については改善された。しかしながら、全ての消防本部で対話が進んでいる状況ではないので、更なる改善が必要である。」
第89回ILO総会政府報告
 「消防職員委員会は、消防職員の勤務条件改善のために十分機能しているものと考える。政府としては、今後とも、労働団体、消防本部等関係機関との連携を図りつつ、この制度が円滑に運用され定着していくよう努める。」