公共緊急サービスに関するILO合同会議
1月27〜31日にかけて、スイス・ジュネーブで開催された。日本の労働側代表として、自治労からは松永産別建設局長、全消協の谷内栄次事務局長、宮ア伸光法政大学教授が参加した。また、政府側からは、総務省消防庁より谷澤叙彦消防課課長補佐、山田裕之消防課職員係長、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部別府充彦参事官が参加した。この会議は、アメリカ・ニューヨークでのテロを契機として、PSIの働きかけによって、危険な仕事に立ち向って活動を進めている消防、警察、救急医療の公共緊急サービス労働者の権利や労働環境の充実改善をはかるために開催された。
会議では、「雇用の傾向」「労働条件」「安全衛生」「人材計画」「調整機構」「職場における社会対話と権利」の6項目に関する課題の解決をはかるため、各国からの報告と提案、質疑討論が行われた。
日本政府の代表者からは、労働安全衛生に関する消防庁の取り組みが報告された。
松永産別建設局長から、「労働条件」の分野では、日本の消防職員の団結権問題について、労働組合権の保障がすべての前提であることを強調し、また、「雇用」「労働安全衛生」についてもあわせて現状と問題点を報告した(別記1)。
会議の最終日には、変化する環境のなかで公共緊急サービスにおける国際的には初めての一連のガイドライン(別記2)が採択された。なお、会議中、ILO事務局から労働基本権に関して、「団結権は労働者の基本的人権であり、警察と軍隊(87号条約9条)の2つの例外を除いては保障される。消防職員、刑務所職員は認められることを明確化している。日本の連合からの提訴もあったが、団結権を持つことができる」の見解が改めて表明された。
<別記1>
本会議における日本労働側代表発言
3.1 雇 用
1. |
安全と公共サービスの平等な利用という観点から,財源・人員不足のPESの問題にはどう対処できるか。
日本では,国・地方ともに厳しい財政事情から,福祉・医療などの生活関連分野の公共サービスが規制緩和・民営化の方向に促進されつつあり,消防職員はまだ少しずつ増加しているものの,消防職員の雇用への影響を懸念している。
日本では,国のレベルで人員や資機材の配置に関する「消防力の基準」が作成され,その基準を実現する責任は市町村にあるが,人員の面で達成している市町村は皆無である。私たちは,日本の消防職場が週60時間拘束を前提としているなかでも,人員の充足率は全国平均で76%に過ぎないこと,そして,その基準の策定や適用にあたっては,第一線の消防職員の参画が認められていないことを大きな問題ととらえている。私たちは,環境変化と不満足な人員体制のもとで,社会全般の消防サービスへの基本的な理解を得るために,私たち自身の継続的な努力と適切な公共サービスの供給に関する社会的対話の必要性を確信している。 |
3.2 労働条件
3. |
労働者が労働条件と賃金に関する問題を交渉できるよう,PESにおける社会対話はいかに保障されるのか。
議長,発言のご許可をありがとうございます。
労働組合権の保障がすべての前提であります。
消防職場の民主化と正しい意味での近代化,労使対等の労働条件決定システム,質の高い公共サービスの提供,いずれについてもそれはあてはまります。
ここにお集まりの全てのみなさんがご存知のとおり,日本の消防職員には団結権が認められていません。しかし,消防職員の有志は自主的団体として全国消防職員協議会(National
Fire-Fighters Council)略称,全消協(Zenshokyo)を組織しています。そして,自治体職員を中心とした労働組合である自治労や労働組合のナショナルセンターである連合との連携のもとで,職場の民主化と環境改善および団結権の獲得を目指して,25年間の活動を進めてきました。しかし,残念ながら未だに消防職員には十分な社会対話ができる状況がありません。
確かに,長年の取り組みの結果,1996年に施行された法律改正によって「消防職員委員会制度」が誕生し,一定のCommunicationの場が確保されました。そして,職場改善や団結権獲得への環境づくりに寄与してきました。しかし,消防職員の勤務条件を決定する制度としては不十分です。問題はたくさんあります。消防職員委員会は,労使対等で労働条件を決定するシステムでないばかりか,労使対等の協議システムですらありません。たとえばその委員会で改善の必要性が合意された事項についても,権限を有する当局に対してはなんらの拘束力はなく,いわゆる上申する制度に止まっています。消防政策全般にわたる労使協議会としての有用性を全否定するものではありませんが,それも職場に労働組合が存在してこそ機能します。
次に,ILOの基本条約である第87号条約が日本の消防職員に対して適用されていないことによる影響について指摘したいと思います。日本の消防職員は市町村の公務員ですが,まるで軍隊であるかのような階級制度の下で,職場の民主化は進みません。一方的な決定システムで決まる労働条件は,不十分な改善に止まります。最も市民の消防ニーズを知っている第一線の消防職員の声が消防政策に反映されないことは,市民にとっても大きな損失であるとともに不幸なことです。さらに,ILOの基本条約の意義を知らず,自主的な職員のグループをつくることすら妨害する管理的職員が後を絶ちません。
こうした中,現在日本では第二次世界大戦後に民主的公務員制度が導入されて以来初めての抜本的な公務員制度改革が進められようとしています。日本国政府は,2001年12月に「公務員制度改革大綱」を閣議決定しました。しかし,それは公務員の労働基本権を引き続き制約することとしたばかりか,労働側の意見を聴取することもありませんでした。そこで,連合は,ILOに対して,日本国政府が国際労働基準に沿った公務員制度改革を行うように勧告することを求め,2002年2月に提訴しました。その結果,2002年11月21日にILO理事会で採択された内容は,消防職員への団結権をはじめ,私たちの提訴内容が全面的に受け入れられたものであり,この明確で力強いILO勧告に心から感謝し敬意を表します。 これを受け,現在連合を中心として私たちはILO勧告の実現に向けた最大限の活動を進めています。しかし,日本国政府は,現段階においても「日本の実情が理解されていない。理解を得るように努力する」という立場をとり続けています。
私たちは,このまま公務員制度の改革が進めば,消防職員はもとより,一般公務員全体にさらに権利の制限が強まりかねないことを深く危惧します。
したがって,ILO条約の批准を促進するとともに,その適用についても実態を検証することが必要です。そして,条約の適用について紛争ある場合には,当事者には,「ILO監視機構の結論を最大限に尊重すること」が徹底的に求められなければなりません。
今一度繰り返します。消防職員については,労働組合権の保障がすべての前提であります。 |
3.3 労働安全衛生
7. |
どのような形態の社会対話がPESにおける安全と衛生の向上を導くのか。女性用の個人用保護具(PPE)の問題はいかに解決するべきか。
私は,日本における消防職員の労働安全衛生の機能不全と今後の方向性を発言します。
日本においても,消防職員の公務中における死者や負傷者の発生する割合は,その職務の特殊性から,他の職場と比較して高くなっています。特徴的には,訓練中の事故が30%台で推移している状況も続いており,さらに積極的な安全衛生対策が重要であります。
そうしたなかで,日本の労働安全衛生法はこうした危険職種に対する特別な法的対応がなく,一般労働者と同じ扱いであります。また,適切な社会対話の機関は不充分です。個人用保護具の問題についても職員参加は不充分であり,一方的に与えられている現状にあります。女性の課題については,日本の消防職員における女性の割合は1%であり,その結果として,環境改善が遅れていることがその伸びを抑制している要因でもあります。装備の軽量化など,女性のみならず,男性にとっても有効な条件整備が必要です。緊急サービスにおける労働安全衛生については,第一線労働者の経験を尊重するとともに,通常の社会対話の関係者に加えて,医師,科学者,技術者などの広範な専門家の参加を求めて基準を設定する必要があります。基準の設定にあたっては,職務のリスクに応じて適切に設定されることが重要です。
また,リスクとそれを回避するための個人用保護具に関しては,職員参加による研究の推進と十分な教育訓練の保障,国際レベルの情報交換が必要であると考えます。 |
|
<別記2>
(仮訳)
公共緊急サービスを取り巻く環境が変化するなかでの
社会的対話に関するガイドライン
公共緊急サービス:変化する環境のなかでの社会的対話に関する合同会議は,2003年1月27日から31日までジュネーブで会合し,本日2003年1月31日に,(結論作業部会から提出された)
以下のガイドラインを採択する。
全般的考察
A |
経済,社会および治安面の環境の変化によって,公共緊急サービス (PES)(1)の増強が必要になっている。そうしたサービスには十分な資金を充てて,よく訓練され,適切な力量を備えた労働者が質の高いサービスを提供できるようにしなければならない。質の高いサービスとは,さまざまなセクションのコミュニティのニーズに応じる,効果的なサービスであり,しかもサービス提供者の側の高水準の職業倫理にかなった行動を特徴とするものである。こうした不安な時代にあって生命と財産への脅威はすます増大しており,それに対応して最前線で働く公共緊急サービス労働者が果たす極めて重要な役割は認識されるべきである。 |
B |
そのためには,あらゆる公共緊急サービス労働者は1998年の労働における基本的原則と権利に関するILO宣言にしたがって,労働における彼らの基本的権利を効果的に行使できるべきであり,それによって質の高いサービスの設計と供給の確保に役立つ質の高い労働条件を実現しなければならない。 |
C |
労働における基本的原則と権利に関するILO宣言に基づく公共緊急サービスの労使間の社会的対話のメカニズムがまだ存在してないところでは,そうしたメカニズムを作るべきである。それは,効果的なサービスを促す条件を決定する際に効果的な発言を引き出す重要な鍵になるものである。 |
|
(1) |
公共緊急サービスの定義には,緊急の状況に対応するために召集される警察,消防,医師と看護師およびパラメディックスなどの救急医療職員が含まれる。このガイドラインの目的上,この定義のなかに軍事職員は含まれない。 |
1. 雇用と人材開発
雇用水準
1.1 |
効果的なサービス供給を高めることを意図する決定では,考慮すべきいくつかの点の調和を図るべきである。 |
|
1.1.1 |
新技術の適用 |
|
1.1.2 |
一定水準の労働と良質の労働生活を確保するために必要な人員水準 |
|
1.1.3 |
予想されるニーズの性質と範囲 |
|
1.1.4 |
不測の事態に備えた計画づくり |
|
1.1.5 |
予算配分と資金の使途 |
1.2 |
したがって公共緊急サービスへの投資は,いずれサービスを侵蝕することになるような雇用削減は回避し,必要なら人員水準を拡大して対応率と質を向上できるように計画されるべきである。 |
雇用の多様性
1.3 |
公共緊急サービスの雇用において性別,民族,その他の面での多様性を拡大する必要性があることから,1958年のILO(雇用および職業の)差別禁止条約(第111号)に述べられた雇用機会と処遇の平等原則に沿って,これらのサービスにおける偏見と差別をなくすための努力を高める必要がある。 |
1.4 |
雇用の多様性を拡大するために,公共緊急サービスの使用者は,社会的対話を通じて労働者ならびに労働者団体と協力して,多様性に関する方針を定め,実施する義務を負うべきである。そうした方針には,計画と運用の手段の一部として以下のものを含めるべきである。 |
|
1.4.1 |
サービスの雇用構成の推移を年齢,ジェンダー,民族性に基づいて記録し,追跡調査すること |
|
1.4.2 |
客観的な採用基準の確立 |
|
1.4.3 |
結果を客観的に評価する制度 |
1.5 |
雇用の多様性を拡大・維持するために,公共緊急サービスで働くことに関心があって,しかもその資格を有する若者や女性,民族的マイノリティなどを採用し,職場にとどまらせるための積極的なキャンペーンを人材計画の中に組み入れるべきである。目的を達成する上での障害になっていると考えられる場合には,採用担当者の意識を変革させるようにすべきである。 |
1.6 |
採用と転職防止の基準を達成する手立てとなる措置には以下のものが含まれるかもしれない。 |
|
1.6.1 |
産休と職場復帰を促す法規 |
|
1.6.2 |
保育施設を利用しやすくするなど,労働と家庭生活の両立を助けることを目的とする政策 |
|
1.6.3 |
キャリアの行く手を阻む障害を正すための分析と行動 |
|
1.6.4 |
キャリア形成にリンクさせた継続的な訓練機会の提供 |
|
1.6.5 |
適切な身体防護装備の研究と提供および効果的な使用 |
|
1.6.6 |
ハラスメントのない労働環境を確保し,ジェンダーおよび人種問題に関する意識を高めるための訓練を全職員を対象として行う |
|
1.6.7 |
全職員にとって平等で公平な苦情申し立てに関する政策 |
1.7 |
社会的対話は,公共緊急サービスにおける雇用が年齢,ジェンダーおよび民族の点でコミュニティをより大きく反映するように多様性を拡大していくための有効な手段となるべきである。 |
1.8 |
法と秩序の問題に応じるコミュニティ・ベースのサービスをめざす新たな方向性を効果的に実践していくためには,主としてより多様な民族を参加させることによって,情報共有のための先見性のあるコミュニケーション政策をたて,信頼を構築し,公共緊急サービス間,特に警察との間のパートナーシップを実現すべきである。 |
訓 練
1.9 |
サービスと労働環境を改善するための職員の訓練とエンパワーメントは,労働の質とサービス供給を改善するためにもっとも重要なものとして考えられるべきであり,十分な資金を充てるべきである。訓練プログラムは,ますます専門化する公共緊急サービスの仕事の性質に合わせて策定されるべきあり,急速に変化する労働環境において彼らの責務を果たすために必要な技能と能力を提供し,高度の専門職業意識を維持させるものでなければならない。公共緊急サービス労働者は,質の高いサービスを提供するために必要な技能を習得できるようにするための訓練水準の開発に参加する権利と責任を持つべきである |
2. 労働条件
2.1 |
生産性と質の高いサービスの供給を確保しつつ,公共緊急サービス労働者の労働が過小評価されないようにするためには,より良い労働条件と適切な賃金構造・水準に関する有効な社会的対話のための環境と機構を設置することが,公共緊急サービスの労使双方にとって政策的に考慮すべき最優先事項のひとつであるべきだ。給与その他の雇用条件は,十分な資格を備えた熟練労働者を採用し,訓練し,雇用し続けることを目的とする人材開発政策の一環として考えられるべきである。 |
2.2 |
作業量と責任が増大し続けるなかで,労働時間の編成に関する決定においては公共緊急サービス労働者代表(2)の発言は,社会的対話を通じて,十分に認められるべきである。公共緊急サービス労働者は,その責任,提供するサービスの緊急性,したがって彼らの勤務編成の点で,他の部門の労働者とは違っているが,その独特の社会的役割を理由にして,これらの労働者がこれらの問題に関して有効な社会的対話を行う権利が否定されるべきでない。そうした権利の否定は,迅速で質の高いサービスの提供という目的に反する結果をいずれ生むことになるだろう。 |
(2) |
文書の中で「労働者代表」という言葉が使われている場合は,下記の1971年の労働者代表に関する条約(第135号)の第3条をさす。
本条約では「労働者代表」という言葉は,国内法規あるいは慣行でそのように認められている人間を意味する。 |
(a) |
労働組合代表,すなわち労働組合,もしくはかかる組合のメンバーによって指名,もしくは選出された代表 |
(b) |
選出された代表,すなわち国内法規もしくは団体協約の規定にしたがって事業体内の労働者によって自由に選出された代表で,その任務には当該国の労働組合の専属的特権として認められた活動は含まれない。 |
2.3 |
公共緊急サービスの労働条件を設定するには,さまざまな地方および国家当局の要求やニーズを考慮に入れるべきである。したがって労働条件は,国の法律と慣行に従って然るべきレベルで団体交渉あるいはそれと機能を同じくするものを通じて,決定されるべきである。警察がどの程度そうした機構の対象になるかについては,国内法規によって決定されるべきである。 |
2.4 |
途上国の公共緊急サービス労働者は,法的にも実際にも一定水準の生活を営むための最低限の収入を保障される権利を有するべきである。最低賃金とは,労働者本人とその家族の適切な生活条件と健康,教育のためのニーズを満たす給与水準を意味すべきである。効果的な最低賃金があれば,収入を補足するために非番の時に就く副業を減らしたり無くすことが可能であり,また副業からの疲労による余分なリスクを負ったり,一般市民の健康と安全を危険にすることがなくなる。国の法律や慣行によって確立されてない場合は,最低賃金水準とその適用と実施のための基準を決めるための法的機構が労働者や労働者代表が参加して設置されるべきである。 |
2.5 |
彼らの任務が一般的でない不規則な時間に及ぶことと,緊急時に迅速に対応しなければならないことを認識した上で,勤務時間と編成を決定する際には以下の原則が遵守されるべきである。 |
2.5.1 |
週労働時間の上限,一日の連続的休息時間の下限,一週間の連続的休憩期間の下限を規定する法律は,異常事態を除いて,遵守されなければならない。 |
2.5.2 |
勤務中の公共緊急サービス労働者の休息時間は労働時間として勘定されるべきである。 |
2.5.3 |
特定の任務の必要性から,あるいは特定の場所での待機を使用者から要求された場合の正規労働時間を超えるシフト勤務では,そうした待機時間は他の補償取り決めが存在する場合以外は,労働時間として扱われなければならない。使用者にはそうした方針を労働者に告げる責任がある。
これらの原則の適用については,社会的対話と団体交渉を通じて議論され,決定されるべきである。 |
2.6 |
彼らの任務が一般的でない不規則な時間に及ぶことと,緊急時に迅速に対応しなければならないことを認識した上で,勤務時間と編成を決定する際には以下の原則が遵守されるべきである。 |
2.5.1 |
週労働時間の上限,一日の連続的休息時間の下限,一週間の連続的休憩期間の下限を規定する法律は,異常事態を除いて,遵守されなければならない。 |
2.5.2 |
勤務中の公共緊急サービス労働者の休息時間は労働時間として勘定されるべきである。 |
2.5.3 |
給与体系は,雇用のために必要な資格,労働時間,リスクおよびストレスの度合いなどを含む多くの要素に基づいて決定されるべきである。警察官や,消防職員,救急医療スタッフなど,公共緊急サービスの各職種間の比較性は,社会的対話を通じて計画され,運用されている職務・給与評価システムにもとづいて,地方と国の状況を反映すべきである。
当事者は,公共緊急サービスの各部門が公共の安全を提供することにおいてそれぞれ独特ではあるが皆等しく重要な役割を果たしていることを理解している。労働が対等であるということは,当然ながら賃金,給付,資金面での価値も対等であるべきである。 |
2.7 |
公共緊急サービスにおいては女性が補助的地位に集中していて,給与や賃金が男性よりも低い傾向があることを示す情報を入手しているが,職務を遂行する者の性別にはかかわりなく同一価値の労働には同一の報酬が与えられるようにするために,1951年の平等報酬条約(第100号)の規定が賃金体系に適用されるべきである。 |
2.8 |
公共緊急サービス労働者が遂行する仕事が危険であることによる早期退職・年金制度の性質と,退職年齢に近づく職員の数と減少する採用人数との不均衡が増大していることから,使用者は,退職時の給付を保障する退職制度を計画し,設計し,財源を確保すべきである。そうした制度は,公共緊急サービス労働者を含むすべての関係者が代表される機関によって管理運営されるべきである。 |
3. 労働安全衛生
3.1 |
勤務中の公共緊急サービス労働者の死亡,負傷,就業不能,疾病が個人,職場の同僚,家族および組織に及ぼす心理的影響や雇用面への影響を減らすために,公共緊急サービスの使用者は先見性のある政策と予防的措置に基づく高水準の職場安全衛生を約束すべきである。労働者はこうした措置の設計と実施の過程に参加すべきである。 |
3.2 |
このための具体的措置には以下のものが含まれるべきである。 |
3.2.1 |
地方や国の安全衛生法で他の労働者に適用されるものは,公共緊急サービス労働者にも適用し,きちんと実施する。 |
3.2.2 |
他者を救助するために自らの生命を危険にさらすような状況において,彼らの防護と自己救出のために十分な資源を配分する。 |
3.2.3 |
安全衛生分野で開発された新技術を使って公共緊急サービスの労働環境を常時改善していく |
3.2.4 |
国際基準を満たす現代的装備を途上国の労働者にも利用できるようにする |
3.2.5 |
適宜,安全衛生基準とそれらの適用に関して団体交渉を行う |
3.3 |
他者を救助する際に直面する物理的,科学的,心理的危険を考えると,公共緊急サービスの使用者は,入手可能な最善の防護措置を提供すべきであり,それには適切にデザインされた身体防護のための装備(PPE)と物資などが含まれる。公共緊急サービスの女性労働者に提供される防護服,ブーツ,その他の装備は,女性労働者の安全衛生と効率的なサービス提供のために女性の身体的要件に応じてデザインされたものでなければならない。労働安全衛生を向上し,公共緊急サービス労働者に直接影響する職業病に対応する方法について継続的にリサーチが行われるべきである。 |
3.4 |
最前線で働く公共緊急サービス労働者の知識と経験(関連機関で表明される女性労働者の意見も含む)は,社会的対話を通じて,身体防護装備の適切なデザインと使用に生かされるべきでる。 |
3.5 |
ネガティブなストレスや,「燃え尽き」現象,勤務中の公共緊急サービス労働者に対する暴力による影響,特に心的外傷後ストレス障害(PTSD)をもたらすような非常に恐ろしい事故や悲劇的な死などの深刻な事件による影響を軽減するために,公共緊急サービス機関は以下のことを実践すべきである。 |
|
3.5.1 |
累積的なストレスや特定の出来事からのストレスを受ける職員と身近な家族を守るために,CISD(訳者註事後の心理的ストレス緩和・発散し,災害体験を整理して受容することを目的とするグループ・ミーティング)を含む適切なストレス・マネージメントとカウンセリング・プログラムを設ける。そうしたことが行われてない場合が多い(農)村部や途上国に特に注意を向ける。 |
|
3.5.2 |
職場暴力を「絶対に許容しない」方針を採用し,暴力的な出来事が原因で生じるどのような問題にも対処するために機動的な介入を確保する。 |
|
3.5.3 |
心傷性災害ストレスや暴力の可能性についてのリスク評価を行う。 |
|
3.5.4 |
ストレスと暴力の問題に関して,有効な社会的対話を通じて問題に対処するために,課題,政策および措置を定期的に再検討する。 |
3.6 |
負傷者や病人を扱う際にHIV/AIDなどの感染症に感染する恐れについて公共緊急サービス労働者の間で不安が増しているが,このことに関連して,使用者団体と労働者団体の協力によって労働者にそうした病気について教育し,意識を高め,適切な防護装備を与えるように努力すべきである。HIV/AIDSなどの感染症に対するキャンペーンにおいては,HIV/AIDSと労働の世界に関するILOの実践規範を含む「普遍的予防措置」原則の適用に基づく予防戦略を組むべきである。これには防護服の供与(特に(農)村部),可能な場合には予防注射,原則の適用に関する訓練,効果的な適用を評価するための監視機構の設置などが含まれるかもしれない。 |
3.7 |
感染を防ぐための予防措置が不十分なところでは,感染が職業に関連している場合に公共緊急サービス労働者に対して労災補償を提供すべきである。 |
3.8 |
ストレス・マネージメントやカウンセリング・プログラム,そしてHIV/AIDSなどの感染症の広まりと被害を減らすための措置に関しては,テストを受けたりストレス・マネージメントやカウンセリング・プログラムを受けた者がしばしば烙印を押されて職場で孤立する可能性があるので,そうしたことを避けるために秘密を厳守すべきであり,そのことをきちんと規定すべきである。 |
3.9 |
公共緊急サービスの対応と労働環境が変化し続けていることを考慮し,新たな安全衛生対策の計画作りや実施,とりわけ開発された新技術と公共緊急サービスへの応用に関する情報を分かち合うことは国際レベルで奨励されるべきである。そのような情報の共有,特に新たな課題とすぐれた実践例に関する情報の共有は,途上国の公共緊急サービス労働者の安全衛生の向上に特に役立つであろう。 |
3.10 |
身体防護装備に関する地域レベルの基準(3)は,公共緊急サービスの国際基準を策定するときに適宜参考になるであろう。
(3) たとえば欧州連合の加盟国に適用される公共緊急サービスに関するEU指令 |
4. 社会的対話と労働の権利
4.1 |
使用者と労働者との間の,そして適宜サービス利用者も加わることもある効果的な社会的対話のメカニズムは,公共緊急サービスの提供におけるあらゆるニーズと制約に関する重要な決定に関して,関係者全員の意見表明を確保するための重要な手段である。社会的対話は,関係者全員が共通の利害に基づく改善能力を高めることができ,異なる見解の妥協点を見出すことに積極的に貢献できることを考えれば,公共緊急サービスが円滑に運営され,効率的で説明責任のある,良質のサービスが提供されるようにするために効果的な社会的対話のメカニズムを作ることは,公共緊急サービスの使用者と労働者の全体的な目標になるべきである。 |
4.2 |
基本的権利(全般的考察のBを参照)に関してと同様に,社会的対話の要素には,相手方を認め,相互に尊重し,他者の発言に進んで耳を傾けることなどが含まれるべきである。こうした要素は,社会的対話を通じて合意された事柄を実施する際の共同責任を確保することになる。 |
4.3 |
基本的権利が尊重され,社会的対話のメカニズムが設けられるようにするためには,政策と実践を承認する際に以下の原則を念頭に置くべきである。 |
|
4.3.1 |
1948年の結社の自由と団結権の保護に関する条約(第87号)と1949年の団結権と団体交渉に関する条約(第98号)は,労働者の団結権と団体交渉権を規定しており,そこには公務部門におけるそれらの権利も含まれている。これらの規定がどの程度警察にも提供されるかは,国内法規によって決められる。こうした状況のもとでは,1978年の(公務)労働関係に関する条約(第151号)と1981年の団体交渉条約(第154号)が適用されるべきである。 |
|
4.3.2 |
団体交渉は,関係者間で自主的に進められるべきである |
4.4 |
可能な場合には紛争は交渉によって解決されるべきである。それができない場合には,ストライキ権が制限されている者も含めてすべての公共緊急サービス労働者が,適宜,斡旋,調停,仲裁など公平で効果的で迅速な紛争解決手続きを利用できるようにすべきであり,これらの手続きが不首尾に終わった場合には双方が合意した法的手続きを利用できるようにすべきである。あらゆる段階ですべての関係者が緊密に関与して,現行の手続きを改善すべきである。 |
5. 公共緊急サービスにおける協調
5.1 |
効果的なサービスを提供するには,特に公共緊急サービスの救命任務を遂行するためには,公共緊急サービスの各部門間のすぐれた調整・協力が確保されなければならない。効果的な協調を実現するには,明確に設定された指揮・権限・責任系統のなかで各機関の役割と責任を明確に定義することが最善である。すぐれた協調的行動の要素には以下のものが含まれるべきである。 |
|
5.1.1 |
公共の安全を提供する際の具体的な任務が各サービスごとに明記され,明確に定義された領域。各サービスが果たす重要な役割は対等であり,同一の価値があるものと考えるべきである。 |
|
5.1.2 |
国内と国際の両レベルで,特に危機管理と危険物資に関して,情報共有と信頼できるコミュニケーションのネットワークの中でサービスの調整・協力 |
|
5.1.3 |
承認された明確なシニア・マネージメント・ガイドラインとプロトコルの範囲内での権限の委譲 |
|
5.1.4 |
各関係機関の職員が参加する継続的な合同訓練と演習の実施。それによって,現行の協調体制の弱点を明らかにし,緊急事態が実際に発生した際に円滑に機能できるようにする。 |
|
5.1.5 |
効果的な協調のための適切な資金を提供し,各機関同士の「領地」争いによる資金争奪戦を回避する。 |
5.2 |
国際的な規模の災害に対してより効果的に闘うために,国際的な早期警戒体制の確立を考えるべきである。 |
付 録 |
1. |
今日のILOがめざす主たる目標は,自由で,平等で,安全で,人間の尊厳を保てる情況で,女性と男性が一定水準の生産的な仕事を得るための機会を促進することである。これには,ILOの言う「一定水準の労働アジェンダ」の4つの要素(すなわち労働権の促進,雇用,社会的保護および社会的対話)に矛盾しない政策が必要である。 |
2. |
. これらの目標を達成するために,ILO理事会に対して,政府,社会的パートナーおよびその他の主要な政策決定機関が公共緊急サービスを取り巻く環境が変化するなかでの社会的対話に関するガイドラインを効果的に適用できるようにするために,適切な技術的助言サービスと技術協力によってこれを推進,フォローアップするようILO事務局長に要請することを求める。 |
|
|