2. ILO結社の自由委員会関係資料

結社の自由委員会第331次報告

第2177号・2183号案件
中間報告
日本政府に対する提訴
提訴組合:
- 2177号案件:連合、連合官公部門連絡会、ICFTU、PSI、ITF、IFBWW、EI、INFEDOP、UNI
- 2183号案件:全労連、自治労連

申し立て:提訴組合は、予定されている公務員制度改革は、労働者団体との適切な協議なしに進 められているものであり、現行の公務員制度法令を更に改悪し、十分な代償なしに公務員の労働基本権制約を保持するものである、と申し立てている。

516. 本委員会は2002年11月の会合でこれらの案件について審査し、中間報告を提出した。この中間報告書は第285回理事会によって承認された(329次報告567-652項を参照)。
517. 2002年12月26日と2003年3月26日付けの文書で、提訴団体である連合(第2177号案件)は、本委員会が求めた情報ならびに追加情報を提出した。提訴団体である全労連(第2183号案件)は、2003年3月18日付の文書で追加情報を提出した。政府は、2002年12月26日、2003年3月31日および4月15日付けの文書で政府の見解を提出した。
518. 2003年2月17日付けの文書で、UNIは第2177号案件の提訴団体になった。
519. 日本は、1948年の結社の自由と団結権の保護に関する(第87号)条約と、1949年の団結権及び団体交渉権に関する(第98号)条約を批准している。

A. 本件に関するこれまでの審査

520. 2002年11月の会合で、本委員会は以下の勧告を行った(329次報告652項)。

(a)

日本政府は公務員の労働基本権の現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直すべきである。

(b)

委員会は、この問題についてより広範な合意を得るため、また法制度を改革して結社の自由の原則に則ったものにするという目的で、公務員制度改革の意義と内容について関係するすべての団体と全面的で率直かつ有意義な協議がただちに実施されるよう強く勧告する。これらの協議はとりわけ、日本の法制度および慣行が87号および98号条約の規定に違反しているということに関して次にのべる事項を取り扱わねばならない。
(i) 消防職員と監獄職員に自らの選択に基づく団体を設立する権利を与えること
(ii) 地方レベルにおける登録制度を修正し、公務員が事前承認に等しい処置にとらわれることなく自らの選択に基づく団体を設立することが出来るようにすること
(iii) 官公部門労働組合が専従役員の任期を自ら定められるようにすること
(iv) 国家の運営に直接関与しない公務員に、結社の自由の原則に則って団体交渉権とスト権を与えること
(v) 結社の自由の原則の下で団体交渉権とスト権のいずれかもしくは双方が合法的に制限もしくは禁止されうる労働者について、彼らから利益を擁護する重要な手段を剥奪する代償として、国および地方レベルで、適切な手続き及び機関を設立すること
(vi) 法制度を改正し、スト権を正当に行使した公務員が重い民法上もしくは刑法上の罰則を科されないようにすること

(c)

委員会は政府と連合に対し、独立行政法人に移管された18,000人の従業員が、事前承認なしに、自らの選択に基づく団体を設立あるいは団体に加入することが出来るのかどうか報告するよう要請する。

(d)

委員会は政府に対し、大宇陀町事件の判決を提供するよう要請する。

(e)

委員会は政府に対し、公務部門における団体交渉事項の範囲について、関係労働組合との有意義な協議を持つよう要請する。

(f)

委員会は政府と提訴組合に対し、不当労働行為の救済手続きについて、現行の法令と慣行に関するさらなる情報を提供するよう要請する。

(g)

委員会は政府に対し、上記全ての事項の進展について委員会に情報提供を続け、関連法案のコピーを提供するよう要請する。

(h)

委員会は政府に対し、政府はこの件についてILOに技術援助を求めることができるということを想起するよう求める。
(i) 委員会はこの問題の法的側面について、条約勧告適用専門家委員会の注意を喚起する。

B. 提訴団体からの追加情報

521. 2002年12月26日付の文書のなかで連合は、全般的に日本政府が本委員会の勧告を受け入れて状況を改善しようとする積極的な姿勢を示してないと述べている。それどころか理事会において日本政府代表は、本委員会の勧告を「承服しがたい」と述べた。この見解を支持して国内では総務大臣が、本委員会が状況を十分に理解してないこと、これは純粋に国内問題であり、公務員の労働基本権の制約を維持するとの政府の方針に対してこれを再考するように本委員会が勧告したことは不適切であることを付け加えた。このような姿勢に対して、連合代表は2002年11月29日に官房長官に対して以下の事項を申し入れた。a) 結社の自由委員会の勧告を全面的に受け入れ、公務員に労働基本権を与える方向で改革案を策定しなおすこと。b) 国際労働基準に沿った改革案を策定するために当該労働組合と直ちに協議を行うこと。同様の申し入れが、行政改革担当大臣、総務大臣、厚生労働大臣に対しても行われた。官房長官は、連合の申し入れを検討することを約束したものの、本委員会の勧告に対して政府がどのように対応するかについては具体的に示さなかった。国会での質問に対して、政府は政府の姿勢が十分に理解されるようにさらに働きかけを行うと述べただけであった。要するに、日本政府は勧告を受け入れる意向を示さないままに、2003年初頭に開催される通常国会に関係法案を提出するために、公務員制度改革大綱に基づく改革作業を進めている。
522. 独立行政法人における労働組合の状況に関する本委員会の質問(329次報告652 (c)項)に関しては、連合は、独立行政法人には現在2つの種類があり、ひとつは職員の身分が非公務員である一般の独立行政法人であり、もうひとつは職員の身分が公務員である特定独立行政法人であることと述べた。改革以前には、これらの機関はすべて中央政府の機関であり、すべての職員の身分は、政府の言う「非現業公務員(例えばホワイトカラー労働者)」で人事院制度の下にあった。改革によって労働関係に具体的な影響が及ぶことになり、特定独立行政法人は独立採算制で運営されていることから、現在では国営企業および特定独立行政法人の労働関係に関する法律が適用されるようになった。その結果、従来同一の職員団体に加入していた労働者が今では分断され、それぞれに異なる労働法が適用されるようになった。混合した構成員を持つ職員団体は現行の登録制度の下では団体交渉権が制限されることから、異なる労働法の適用を受ける組合員を擁する登録職員団体は、組織の再編を余儀なくされることになった。
523. 連合は、連合傘下の労働組合が経験した具体的な事例を挙げている。
- 全農林労働組合は、非現業部門(ホワイトカラー労働者)の約28,000名の職員を組織していた。同省の17の機関が独立行政法人に再編されたために、労働組合は登録制度の要件を満たすために労働組合を分割することを余儀なくされた。これは結社の自由の侵害であると連合は考えている。21,500名を擁する新全農林が省内に設立され、17の労働組合(労働組合法のもとで)が独立行政法人のなかに設立され、合計組合員数は約6,500名である。
- 全北海道開発局労働組合は、非現業部門の約6,000名の職員を組織していたが、同省の開発土木研究所が独立法人化されたことで、非現業職員の労働組合と独立行政法人の労働組合の2つの組合に分かれることを余儀なくされた。連合は、これは結社の自由に対する侵害のもうひとつの事例だとしている。
524. 連合は、独立法人化は政府の方針のもとで今後も推進されることから、結社の自由は今後もさらに侵害されることになると主張している。(身分が公務員でない)一般の独立行政法人については、独立法人化された機関のどれもがこれまでのところまだ組織化されてないことから、結社の自由の侵害は報告されてない。しかしながら、組織化された職員のいる機関が独立行政法人に再編された場合には、同様の問題が生じることは明らかである。連合は、本委員会の勧告(329次報告652 (b) (iv)項)に基づいて、政府が国家の運営に直接関与しない公務員に団体交渉権とストライキ権を付与し、そして職員団体登録制度を廃止すれば、このような結社の自由の侵害は原則的に生じないものと考えている。
525. 大宇陀町事件の奈良地裁判決に関して本委員会が出した質問に関して(329次報告652 (d)項)、連合は、大宇陀町公平委員会が1999年2月1日付けで出した職員団体の登録抹消の裁決を奈良地裁は無効としたと述べている。連合は、奈良地裁の判決にはいくつかの積極的な点があり、この事件に関して適切なものであったとしているが、大宇陀町の管理職の範囲に関する規則(以下「規則」)の合憲性と改正の必要性について言及してないことから、規則の中身を十分に検討するところまでいってないとしている。そうした判決は、従来の政府の姿勢と過去の判例を継続しているだけで、法制の正当性に関する判断を回避しており、結社の自由と団体の基本的権利を侵害する深刻な問題を伴うものである。判決に全面的に満足しているわけではないが、連合は取り消された団体の権利と結社の自由が復元され、労使関係の正常化に寄与することを期待している。提訴団体は、政府が本判決を最終判決として受け入れ、それに対応すること、そしてこの規則と法制を改正することを要請している。
526. 不当労働行為の救済手続きに関しては(329次報告652 (f)項)、連合は、現行の法制の下では、公務員の労働関係と彼らの団体の権利は従事している職務によって異なる扱いがされていると述べている。これらの団体には、国家公務員法と国営企業等労働関係法、地方公務員法、地方公営企業労働関係法など異なる法規が適用されており、同一の機関内で同一の事由によるものでも、救済手段に訴えることができる団体と訴えることができない団体があるというような事態が発生する。提訴で指摘された事項のひとつは、労働組合法を適用されないために団結権が規制され、職員団体としての目的の追求を阻害されている職員団体に関するするものであった。たとえば、有明町(鹿児島県)では、非現業自治体職員と彼らの組合には地方公務員法が適用され、現業自治体職員と彼らの組合(現業職員評議会)には地方公営企業労働関係法が適用される。町長は1999年6月に双方に対して週労働時間の延長を提案し、交渉も合意もないまま翌月にはその提案を実施に移した。現業職員評議会は鹿児島県の地方労働委員会に対して不当労働行為の苦情を訴えることができ、爾後は団体交渉を通じてこの問題を解決することで最終的に合意した。それとは対照的に、非現業職員を代表する組合は法的な救済を申し立てることはできない。連合は、この差別的な取り扱いは団結権を明らかに侵害しており、そうした侵害を防ぐことのできない現行登録制度は第87号および第98号条約に違反すると主張している。連合は、労働組合権が官民両部門の労働者に平等に保障されるように法制を改正することを要求している。
527. 2003年3月28日付の文書のなかで連合は、何ら進展がないこと、そして連合代表が2003年2月24日に再度官房長官に会見した際に、政府は職員団体と誠実に交渉・協議すると言いながら、政府には公務員制度の改正を強行するつもりはないと官房長官が述べたとの情報を提供してきた。連合はまた行政改革担当大臣に対して従来からの要求を繰り返したが、それに対して大臣は、政府は大綱に基づいて国家公務員法の改正に取り組んでおり、折に触れて労働組合と協議するつもりであると述べたとしている。国会においてそれ以外の進展はなかった。再三の要求にもかかわらず、本委員会が勧告した「全面的で率直かつ有意義な協議」を行う意向が政府にはないことが明白になった。一方政府は大綱に基づいて改正作業を続けており、2003年6月18日に会期が終了する今国会に法案を提出する意向を変えてない。これは、本委員会の勧告を全面的に拒否するものである。結局、行政改革推進事務局は2003年3月28日に関係府省に法案を提示して、意見を求めた。そうした法案は通常は府省との公式協議終了の2週間後に内閣に提出される(*)ので、ここで問題にしている法案は本委員会が検討する機会を持つ前にすでに制定されているということになるかもしれない。
(*)訳注:「公式協議開始後2週間で閣議決定される」というのが正確な仕組みである。
528. 2003年3月18日付の文書のなかで全労連は、政府が公務員制度改革を純粋に国内問題であると見ていることと、労働組合との然るべき協議が行われていないことに言及している。全労連は独立行政法人における労働関係体制に関して、国公労連の行政事務職員部門と全運輸労働組合を含む7つの労働組合が、混合組合であったために再編を余儀なくされたことを指摘している。国立病院が2004年4月から独立法人に転換することから、現在全医労も同じ問題に直面している。国立機関から独立法人への移行に伴って、既存の労働組合の分割と再編が必要になるので、組合が活動を行う上での力と能力にかなりの影響が及ぶ危険がある。問題の中核は、現行の職員団体登録制度にあるとして、全労連はこれを廃止すべきだと述べている。政府は地方独立行政法人の設立に関する法案を出すことを計画しているが、この法案が可決されれば自治体職員も同様の組織問題に直面することになる。


C. 日本政府の回答

529. 2002年12月26日付けの文書のなかで政府は、独立行政法人を設立する目的は、行政改革を進めるなかで、政策の企画機能と実施機能を分離することであると述べている。国営企業および特定独立行政法人の労働関係に関する法律は、特定独立行政法人の職員(身分は公務員)に適用され、労働協約締結権を含む団体交渉権は保障されている。2001年と2002年にすでに独立行政法人に移管された政策実施機能に加えて、統計局、造幣局および印刷局の運営が2003年4月から特定独立行政法人に移行されることになっている。そして2004年4月には、国立病院と療養所についても移行が計画されている。業務の独立法人への移行をこのように増やすことによって、政府は団体交渉権とストライキ権が保障されている公務員の範囲を拡大してきた。したがって、本委員会の勧告652 (c)に関しては、特定独立行政法人に移行した職員の団結権は、国営企業および特定独立行政法人の労働関係に関する法律第4条1項によって保障されている。
530. 2003年3月31日付けの長文の情報提供文書(以下に要約)のなかで、政府は、国家公務員法を改正するために関係者と現在交渉・協議中であると述べている。2月半ばに政府は具体的な計画を提示し、そのなかには能力等級制度の導入や採用試験制度の改革(付録を参照)およびそれらに要求される議論などの主要な問題が含まれていた。官房長官と行政改革担当大臣を含む数名の政府高官が連合と会い、政府は職員団体との対話を続けて、率直で有意義な交渉と協議が行われるようにしたいと断言した。
531. 531. 政府は、公務員の労働関係の歴史を1946年まで遡って説明している。公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、彼らの労働基本権には一定の制限が存在するものの、人事院勧告制度などの相応の代償措置が保障されている。現行制度は国内で十分に受け入れられている。
532. 独立行政法人の設立を促進する根本的な理由(政策決定と政策の実施とを分離すること)について、政府は公務員の基本的権利はその制度の下で着実に拡大しているとしている。特定独立行政法人に移行した職員(2003年1月時点でおよそ64,000名、国家公務員の12.6パーセントを占める)は公務員の身分を保持したままで、国営企業の職員と同様に国営企業および特定独立行政法人の労働関係に関する法律が適用される。彼らは、団体交渉権および労働協約締結権を有する。非特定独立行政法人に移行した職員(2003年1月時点でおよそ2,000名)に関しては、もはや公務員でないことから労働基本権の制約は解除されている。彼らには労働組合法が適用され、団体交渉権と労働協約締結権およびストライキ権を享受する。現在は国立大学法人について検討中であり、これは125,000名の職員に影響がある。彼らは公務員でなくなることから、労働基本権の制約は解除されることになる。これは2004年度から始まる予定である。
533. 消防職員の権利に関しては、政府は、歴史的背景や、遂行する任務、彼らの権限及び階級制度を比較すると、消防職員の職務は第87号条約第9条で言及されている警察官の職務に相当するとする、従来からの主張を繰り返している。政府はまた、消防職員委員会の重要性と役割に関して従来からの主張を繰り返し、この制度の下で、消防職員は他の行政職員と同等もしくはそれ以上の賃金・労働条件を獲得してきたとしている。政府は、消防職員および消防職員委員会の参画を得ながら、彼らの労働条件を改善するために最善を尽くす決意である。
534. 刑務所職員の権利に関しては、政府は従来からの主張を繰り返し、監獄職員の職務は第87号条約第9条で言及されている警察官の職務に相当するとしている。彼らが団結権を否認されているのは、彼らの任務の特殊性から、特に強固な統制と厳正な規律の下におかれる必要があるからである。これらの職員は、他の行政職員と同等もしくはそれ以上の賃金・労働条件を享受しており、賃金体系は警察官のものと同一である。労働条件は、人事院勧告制度の下で改善されており、たとえば1998年に人事院は、監獄職員の任務を特に考慮して、俸給表に新たに特別な職務の級を勧告し、その結果改定されたものは同年中に承認され、実施された。
535. 職員団体の登録制度に関しては(329次報告652 (b) (ii)項)、政府は、登録制度は職員団体の設立に規制を課すものではないので、職員団体の設立には認可を必要としないとしている。地方公務員は、事前の認可もしくはそうした認可に相当する手続きを経ずして、自ら選択する団体を設立することができる。地方自治体の職員は、自治体の境界を越えて組織することを認められており、団体は連合や総連合に加入することができる。登録制度は、その団体が民主的で独立している団体であるかどうかを検証するために設けられているもので、その他の規制を課すものではない。政府は、職員団体が登録されているか否かによって、法人格の取得や交渉能力の面で実質的な違いはないと付言している。したがって、登録制度は組合を細分化する効果を持つものではなく、第87号条約適用上の問題はない。
536. 組合役員の在籍専従制度に関する本委員会の勧告に関しては(329次報告652 (b) (iii)項)、政府は、在籍専従制度は、公務員が公務員の身分を保持しつつ職員団体の役員としてその活動に専念できるようにするために認められる特典にすぎないとしている。在籍専従期間の上限は国会によってこれまでに2回にわたって延長され、現在は7年と定められている。この制度は、そのような権利が自動的に付与されることのない民間部門と比べてはるかに寛大なものである。政府によれば、専門家委員会はすでに1994年の報告のなかで、本問題は本条約第1条の問題ではないとの結論をだしている。したがって、政府としては、本件に関して何ら問題はないと考えている。
537. 国家の運営に直接携わらない公務員の団体交渉権とストライキ権に関しては(329次報告652 (b) (iv)項)、政府は従来からの主張を繰り返し、公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、彼らの労働基本権には一定の制限が存在するものの、人事院勧告制度などの相応の代償措置が保障されているとしている。そうした代償措置は非現業部門の公務員に関しても存在する。労働協約締結権を否認されている公務員は、国家機関および地方自治体の非現業部門で働く職員だけであり、これらの職員は(国家公務員法が適用される)政府省庁や同等の機関で働く、国家の政策企画や政策の実施に携わる者であり、したがって「国家の運営に携わって」いる。これらの職員のストライキ権に関しては、彼らは人事院制度などのような相応の代償措置を享受しており、そうした立場は日本の最高裁判所によって支持されていると、政府は述べている。したがって、政府は、公務員の団体交渉権ならびにストライキ権の制約は、ILO条約上何ら問題はないものと考えている。
538. 団体交渉権とストライキ権が合法的に制限もしくは禁止されている労働者に十分な補償をするために相応の手続きと制度を設置するようにとの本委員会の勧告(329次報告652 (b) (v)項)に関しては、政府は、人事院勧告は1986年以降完全実施されており、また大半の地方自治体も人事委員会の勧告に沿って給与改定を実施してきたので、現行の人事院による代償措置は適切に機能しているとしている。代償措置には、身分保障、法律による勤務条件の決定、人事院勧告制度、勤務条件に関する行政措置要求の手続き、不利益処分に対する審査請求などが含まれる。その結果、公務員は民間労働者と同等もしくはそれ以上の労働条件を享受している。現在行われている改革では、公務員の労働基本権制約と人事院による代償制度は維持される。
539. ストライキ権禁止に違反した場合の民事罰と刑事罰の問題に関しては(329次報告652 (b) (vi)項)、政府はそのような刑事罰は、公務員のストライキを共謀し、そそのかし、あおる者、またはこれらの行為を企てた者に限定されており、ストライキに単に参加しただけでは処罰されることはないと述べている。3年以下の懲役または10万円以下の罰金を含む刑事罰は、国家公務員法または地方公務員法の下で違法行為の首謀者に課せられる可能性がある。過去20年間に、ストライキを理由に公務員が懲役に服したことはない。法律によって、国家公務員と地方公務員はストライキを行うことを禁止されており、そうした禁止を犯す者には懲罰が適用されるのは当然のことである。
540. 独立行政法人における労働組合の設立に関しては(329次報告652 (c)項)、政府は特定独立行政法人の職員(身分は公務員)は国営企業および特定独立行政法人の労働関係に関する法律の下で労働組合を組織する権利を保証されていると述べている。一方、非特定独立行政法人の職員(身分は非公務員)は、一般労働者になることから、労働組合法が適用される。独立行政法人への移行の結果として再編を余儀なくされた職員は結社の自由を侵害されたとする連合の追加情報(2003年1月9日付)に対して、政府は、それらの職員の結社の自由は保障されており、移行後の組織体制を決定するのは職員団体に任せられていると述べている。さらには、再編後も連合団体を結成することは可能である。
541. 大宇陀町事件に関しては(329次報告652 (d)項)、政府の説明によれば、裁判所は公平委員会が課長補佐を管理職に属すると判断したことを誤りとして、当該職員団体の登録抹消を取消したが、同時に一般職員と管理職の区別に関する規則の正当性は有効であり、この種の事実判断を中立の第三者機関に委ねることが適切であるとの判断も下した。この事件は高等裁判所に控訴中であり、政府は最終的な判決を本委員会に連絡する。
542. 不当労働行為の救済手続きに関して本委員会が要請した情報に関して(329次報告652 (f)項)、政府は以下のように述べている。非現業公務員(労働組合法の適用を受けない)は、国家公務員法と地方公務員法の下で不当労働行為に対して保護されている。彼らは労働条件に関して行政措置要求ができるし、不服審査請求を人事院に提訴することができる。現業公務員には労働組合法が適用され、国営企業等労働関係法(国家公務員の場合)もしくは地方公営企業労働関係法(地方公務員の場合)のもとで不当労働行為に対して民間部門労働者と同一の全般的な保護がある。
543. 2003年4月15日付の文書のなかで、政府は連合(2003年3月28日)と全労連(2003年3月18日)が提供した追加情報には事実誤認と考えられる箇所があることを指摘している。
- 連合からの情報に関して、政府が公務員の労働基本権の検討を棚上げもしくは延期したいとか、交渉・協議なしに国会に法案を提出するつもりであるということを否定した。2003年2月24日、25日と3月31日の会合では相互の理解を促進する交渉・協議が行われた。その結果、行政改革推進事務局は国家公務員法の改正法案に関して連合官公部門連絡会との交渉・協議を開始した。2003年4月8日に交渉・協議が行われていた。
- 全労連からの情報に関しては、本委員会が決定を下してから2ヶ月が経過しているのに、何ら具体的協議が行われてないと述べていることに対して、政府は異議を唱えている。行政改革推進事務局は、国公労連(全労連の加盟組織)などの団体に対して具体的な交渉と協議を行うように申し出たが、この申し出は拒否された。国公労連とのもっとも最近の協議は4月4日に行われ、政府は今後も誠意を持って交渉・協議を行うつもりである。
544. 公務員制度改革の現状に関しては、政府は、行政改革推進事務局が3月28日に国家公務員法改正法案を労働者団体に非公式に提示し、同時に関係省庁にも同様に提示したことを説明した。これは、政府が法案に関する協議を開始したことを意味するだけであって、法案に関する閣議決定の日程を設定したことを意味するのではない。政府は、国会への法案提出へ向けたスケジュールを含めて、労働者団体と十分な協議を行うことを彼らに伝えている。
545. 人事院制度が不十分であるとする全労連からのコメントに関しては、政府は、この制度は労働条件の変更に関して労働者団体の意見を十分に聞き、そうした意見をできる限り政策と措置に反映させるものであるとの見解を繰り返した。2002年の人事院勧告の準備段階では、民間部門の動向を勧告に反映させるために、人事院は労働者団体から従来よりも多くの意見を聴取し、そして政府は要請に応じてできる限り多くの会合を持って、労働者団体からの理解を得るため十分に説明するよう努力した。今回の給与改定は、法律で規定されている情勢適応の原則に照らして十分に合理的な措置である。地方公務員の給与調整措置に関しても同様の配慮と原則が取り入れられている。
546. 回答のなかで、政府はさまざまな問題に関して次のようにも述べている。これは純粋に国内問題であり本委員会が介入すべきではない(たとえば公務員制度改革)、国内の裁判所はこれらの法制度と規定の一部が有効であると判断している(たとえば人事院制度)、専門家委員会や結社の自由委員会、あるいは両委員会とも、過去に日本政府の見解を承認した(たとえば消防職員と監獄職員)、そして過去40年間にわたって政府はILOと対話をし、監督機関の意見に応じてさまざまな措置を講じてきた。


D. 委員会の結論

547. この案件は日本で現在進められている公務員制度改革の内容と手続きの双方に関するものである。委員会は、提訴組合と政府から追加情報を受け取った。そのほとんどはこれまでの情報の繰り返しであった。一方改正案の法文は国会に提出されようとしているにもかかわらず、委員会に届けられていない。従って委員会は、当該法文を参照することなく、これまで提出されている情報にのみ基づいて検討を行う。政府に対し改正法の法文を提出するよう要請する。
548. 案件の内容を審査する前に委員会は労働条件と結社の自由の促進についてILOが取り扱う事項は、主権国家の内政に干渉するものであると見なされてはならないことを想起する。なぜならば、このような問題はILOが加盟各国から委託を受けて行う任務の範疇に含まれており、各国はそれぞれがその目標に向けて協力することを言明しているのである。

・消防職員と監獄職員の団結権

549. 前回の審査で委員会は、この問題に対するこれまでの見解を想起した(329次報告633項、勧告652 (b) (i)項)。専門家委員会はその後再び2003年レポートでとった立場を確認している(P271-272)。政府の見解には何ら新しい要素はなく、様々なフォーラムで数々の議論がなされたにも関わらず、全く何の進展も見られていないことを深く遺憾とする。第87号条約の唯一の例外は軍隊と警察のみであり、委員会は再度政府に対し消防職員・監獄職員に団結権を与えるよう主張する。この件に関する進展を今後も委員会に報告するよう求める。

・専従組合役員の任期

550. 委員会は、公務員団体が自ら専従組合役員の任期を定められるようにすべしと政府に要請した。政府の回答には、官公部門の方が民間よりもこの件については恵まれている、また専門家委員会は1994年の報告でこの件は条約第1条に該当しないとしている、とある。委員会は、これは官民の比較の問題ではなく、現在の制約が結社の自由の原則に合致しているかどうかの問題であること、また、94年報告での見解は87号条約ではなく98号条約に関するものであり、ここで問題となっているのは87号条約の「労働者団体が完全に自由に代表を選ぶ権利」であることを強調する。従って委員会は前回のコメント(329次報告633項)を参照し、政府に対し専従組合役員の任期を労働者団体が自ら決められるように法改正することを再度要請する。

・管理職の除外の範囲

551. 委員会はこの件に関する一般コメント及び大宇陀町裁判についての情報に留意する。大宇陀町裁判では組合登録取り消しが無効とされたようであり、委員会はこの判決及びこうしたケースで通常適用される法・慣習は原則に合致しているものと信ずる。最終判決が出された折りにはこれを提出するよう要請する。

・IAIに移管された職員

552. 委員会はこの政策や政府が行革実施を決めたことについてコメントする権限はないものの、行革を進める上で政府が結社の自由の原則を犯していないかどうか、公務員に団結権と団体交渉権が認められているかどうかを審査する権限はあることを指摘する(329次報告648項)。委員会は、政府、提訴団体からの追加情報に留意した。委員会は、提訴団体は移管によって組合員が混合状態となり労組の再編を余儀なくされる事実(そして将来そのようにする)に異議を申し立てていることに留意する。そしてこれは団結権侵害であると申し立てている。委員会としては行革に伴って労組が再編を迫られることは間違いないが、現在独立行政法人(特定及び非特定)に雇用されている者には団結権があることに留意する。特定IAIで公務員に留まるか、非特定で公務員身分を失い労組法対象の労働者になるかに関わらず、団結権はある。しかしながら委員会は政府に及び提訴団体に対し、この再編が従業員の団体交渉権にどのような影響を与えるのかを示すよう要請する。

・公務員の団体交渉権・団体協約締結権

553. これについて委員会は、未だ省庁及び類似の機関に雇用されているかすでにIAIに移管されたかに関わらず適用される原則を想起する。団体交渉権は官民問わず全部門で認められるべき権利である。例外は軍隊、警察、国家の運営に携わる公務員のみである(329次報告643項)。正当な理由によりこれら権利を認められていない者は、全面的な権利保護が可能となるような適切な保障を受けるべきであり、その保障は関係者全てが信頼できるものでなければならない(329次報告648項)。提訴団体は最初の申し立て及びその後の追加情報でも、人事院制度は適切な代償措置として労働者団体の信頼を得ているものではないと繰り返し批判している。委員会は政府が、全ての地方政府が人事委員会の勧告に則って賃金の改定を行って来たわけではないと述べていることに留意する。よって委員会は、公務員の団体交渉権・協約締結権、また正当な理由でこれらを認めない場合には適切な代償措置を保障することに関する前回のコメントに言及する。委員会は政府に対し、改正法がこれらの原則に完全に合致したものとなるよう保障することを求める。

・スト権と罰則

554. 委員会は、公務員も民間同様にスト権を享受すべきことを想起する。例外として認めうるのは、軍隊、警察、国家の名において権限を行使する公務員であり、言葉の厳格な意味における不可欠業務に携わる労働者、あるいは国家の緊急事態である。スト権が奪われまたは制約されている場合は、適切な代償措置を与えられるべきである。加えて、適切なやり方でストを行ったが為に労働者や組合役員が処罰されることがあってはならない。従って委員会は、前回のコメント(329次報告641項)に言及する。政府が過去20年間ストを理由とした公務員の投獄は1件もないと述べていることに留意しつつ、委員会は、そのような場合に罰金等の他の制裁が科されているのかどうかを示すよう要請する。また政府に対して改正法がこれら原則に完全に合致したものになるよう保障することを求める。

・地方公共団体における職員団体登録

555. 委員会は前回もこのケースを審査しコメントした(329次報告635項)。その際前々回に下した決定に言及しており、その前々回の決定自体が実情調査調停委員会のコメントを参照したものであった。提訴団体は実質的に労組を分断している登録制度が問題の核心であるとの主張を維持している。一方政府は地方公務員には自治体の枠を越えて団結することが許されているし、連合や総連合に加入できるとの従来の主張を繰り返している。こうした状況で委員会にできるのは、労組の過度の細分化は労組を弱体化し、労働者の権利を守る活動を弱めるものであることを想起して、公務員が自らの選択で組織を結成できるよう法改正することを勧告することのみである。

・不当労働行為の救済措置

556. 委員会は、政府及び提訴団体から提出された情報に留意する。有明町(鹿児島県)を例に取ると、現業労働者(ブルーカラー)と非現業労働者(ホワイトカラー)の間で同様な問題に関して差別的処置がとられているように見受けられる。適用される法律が異なるためである。政府は、あらゆる状況に対応できる救済措置が適切にとられているとする一方で、有明町のケースには言及していない。この件について政府の見解を求める。

・協議プロセス

557. 委員会は、政府及び提訴側から提出された情報に留意する。そしてこの問題に関して両者の主張が全く相容れないものであることを再度認めざるを得ない。実際会合は持たれたが、政府の立場は微塵も変わっていない。よって委員会は前回の幅広いコメントを参照し(329次報告651項)、労組と全面的で率直かつ有意義な協議を行うことの重要性を政府に対し再度注意を喚起しなければならない。将来にわたり多くの公務員に影響を及ぼす今回のようなケースではなおさらである。この問題に関連して委員会は政府に対し、交渉事項の範囲についての労組との対話の進展状況を報告するよう求めた(329次報告勧告652 (a) (g)項)。しかし何らの情報も届いていない。委員会は再度関係者に対し、87号および98号条約に述べられる結社の自由の原則に合致した合意が得られるよう努力すること、および進展を通知するよう要請する。

・委員会の勧告

558. 前述の中間的な結論を踏まえ,委員会は理事会に対し次の勧告を承認するよう求める。
(a) 委員会は政府に対し,公務員の基本的権利に対する現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直すよう再度強く要請する。
(b) 委員会は再度関係者に対し、公務員制度改革について、および日本がすでに批准している87号および98号条約に述べられる結社の自由の原則に則った法改正について、早急に合意が得られるよう努力すること、および進展を通知するよう再度強く要請する。合意はとりわけ、次の諸点についてなされるべきである:
  (i) 消防職員及び監獄職員に団結権を保障すること。
  (ii) 地方公務員が登録制度実施の結果として過度の細分化を被ることなく、自ら選択する組織を結成できるよう保障すること。
  (iii) 職員団体がその専従役員の任期を自ら定められるようにすること。
  (iv) 公務員が団体交渉権と労働協約締結権を取得し、又、それらの権利が正当な理由により奪われている(*)公務員が適切な代償措置を享受できるよう保障すること。それらの措置は完全に結社の自由原則に合致するものでなければならないこと。
  (v) 結社の自由の原則に則って公務員にスト権を付与し、この権利を正当に行使する労働組合の組合員及び役員が重い民事罰又は刑事罰の対象とならないことを保障すること。
(c) 委員会は政府に対し、公務における交渉事項の範囲について関係労働組合と有意義な対話を行うよう要請する。
(d) 委員会は政府に対し、かつてストに訴えた公務員が罰金等、投獄以外の処罰に処されたのかどうか知らせるよう要請する。
(e) 委員会は政府に対し、公務員の労使関係制度を改正する全ての法案の法文を委員会に提供するよう要請する。
(f) 委員会は政府に対し、大宇陀町裁判の最終判決が下された暁にはそれを委員会に提供するよう要請する。
(g) 委員会は政府及び提訴団体に対し、再編によって独立行政法人(IAI)へ移管された職員の団体交渉権がどのような影響を受けたのか情報を提供するよう要請する。
(h) 委員会は政府に対し、有明町案件における不当労働行為の差別的処置に対する申し立てについて、委員会にコメントを提供するよう要請する。
(i) 委員会は政府に対し、上記すべての事項の進展について、委員会に情報提供を続けるよう要請する。
(j) 委員会は政府に対し、この件についてILOの技術的支援が利用できることに注意を喚起する。
(*)訳注:「それらの権利が正当な理由により奪われている」とは、特定カテゴリの労働者の労働基本権がILOの結社の自由の原則が認める理由によって制約されていることを指す。