2. ILO結社の自由委員会関係資料

結社の自由委員会第329次報告
第285回ILO理事会(2002年11月)にて採択
連合国際政策局仮訳

第2177号・2183号案件
中間報告
日本政府に対する提訴
提訴組合:
- 2177号案件:連合、連合官公部門連絡会、ICFTU、PSI、ITF、IFBWW、EI、INFEDOP
- 2183号案件:全労連、自治労連

申し立て:提訴組合は、予定されている公務員制度改革は、労働者団体との適切な協議なしに進 められているものであり、現行の公務員制度法令を更に改悪し、十分な代償なしに公務員の労働基本権制約を保持するものである、と申し立てている。

567. 2177号案件は連合及び連合官公部門連絡会からの2002年2月26日付けおよび3月25日付けの書簡により申し立てられた。この案件には、国際自由労連(ICFTU)が2002年2月27日、国際公務労連(PSI)が2002年3月1日、国際運輸労連(ITF)が2002年3月7日、国際建設林産労連(IFBWW)が2002年3月12日、教育インターナショナル(EI)が2002年3月18日、国際公務従業員連盟(INFEDOP)が2002年3月27日に、それぞれ支持を表明している。
568. 2183号案件は全労連および自治労連からの2002年3月15日付け書簡により申し立てられた。
569. 日本政府はこれら2つの提訴に対する回答を2002年9月16日付けの書簡で提出した。
570. 日本は1948年の結社の自由及び団結権保護条約(87号)と1949年の団結権及び団体交渉権条約(98号)を批准している。1978年の労使関係(公務部門)条約(151号)は批准していない。

A. 提訴組合の申し立て

2177号案件

571. 2002年2月26日付け提訴状のなかで、提訴組合である連合と連合官公部門連絡会は、日本の現行公務員制度がILO第87号および第98号条約に違反し、国際労働基準に適合してないことは、これまでのILOの報告で明らかになっていると主張している。しかしながら日本政府は一貫してILOの勧告を無視してきた。それどころか、2001年12月25日に閣議決定した公務員制度改革大綱のもとでの現行の公務員制度改革手続きは、政府の人事管理権限が大幅に拡大される一方で、公務員の労働基本権の制約が維持されるので、情況をさらに悪化するものである。
572. 日本の労働関係法制は、第2次世界大戦後に公務員の労働基本権を著しく制限する国家公務





区分 団結権 団体交渉権 争議権
非現業公務員
(警察、海上保安庁職員等は×)
× ×
現業公務員
(独法公務員を含む)
×




非現業公務員
(警察、消防職員は×)
×
(書面協定可)
×
現業公務員 ×

員法が制定されて以来基本的に変わっていない。その後その他の公務員をカバーする他の法律が制定されたが、いずれも程度の差はあれ、彼らの労働基本権を以下のように著しく制約するものであった。

573. ILOの監視機構は、再三にわたりそうした法制と慣行を批判し、勧告を行ってきた。たとえば、1965年の結社の自由委員会・実情調査調停委員会は、争議権の一律・全面禁止(ドライヤー報告、事実認定と勧告の要約・パラ19と24)、管理職員の範囲のあり方(同上・パラ54)、非現業公務員に対する交渉権限・内容の制限(同上・パラ60)、在籍専従制度のあり方(同上・パラ63)などの問題に関して、批判的なコメントを行った。

574. 政府はこれらの勧告を無視し続けたので、公共部門の労働組合は1972年と1973年に、消防職員、刑務職員及び海上保安庁職員の団結権否認について、結社の自由委員会に提訴した。団結権とストライキ権は異なる問題であることを指摘する一方で、委員会は消防職員に団結権を認めるべきであると述べた(第139次報告、737号案件・パラ180)。委員会はまた、法律を改正して、地方公務員が自ら選択する職員団体を設立できるようにすることを勧告し(前掲文書・パラ170-171)、非現業公務員の団体交渉権の規制についてコメントした(前掲文書・パラ334)。さらに1983年に、公共部門労働組合は、公務員の給与引き上げに関する人事院勧告を政府が実施しなかったことに関して委員会に提訴した。委員会はこの措置を遺憾として、団体交渉権とストライキ権制約の代償措置をこれらの公務員が享有することを強く希望した(第222次報告、1165号案件・パラ168)、この勧告は後に繰り返された(第236次報告、第1263号事件・パラ274)。

575. 1983年と1994年の一般調査において、条約勧告適用専門代委員会は一連の原則を策定したが、日本の公務員法制は、とりわけ管理職として除外される範囲、政治活動の禁止、争議権の一律・全面禁止、ストライキ参加者に対する刑事罰と行政処分に関して、これらの原則に合致していない。

576. 総会・基準適用委員会の複数の結論でも同様のコメントが含まれており、日本の公務員の労働組合権制約がILO基準に合致しないことを認め、状況を是正することを勧告した。最近では2001年6月に、総会・基準適用委員会は、消防職員を含む各種公務員の結社の自由権に関してコメントし、後者の結社権に関して当該労働組合との誠実な対話が実行されることへの期待を表明した(2001年第89回ILO総会、プロヴィジオナル・レコードNo19、第2部、p2/46)。以上すべてのことは、日本の公務員法制が各種ILO監視機構から繰り返し強く批判されてきたこと、しかし日本政府は状況を是正するために何らの措置も講じてこなかったことを示している。

577. 提訴組合は、公務員改革大綱がILO条約をさらに侵害するものであると訴えている。大綱は、先(2000年12月1日)に閣議決定した行政改革大綱に基づくものである。もっとも重要な問題である公共部門の労働関係制度に関しては、国際労働基準を遵守することを求める提訴組合からの強い要求を日本政府は無視した。それどころか、日本政府は一方的にことを進め、2001年12月25日の閣議で公務員制度改革大綱を承認した。これは手続き上も、内容的にも結社の自由の原則に違反するものである。

578. 手続きに関しては、日本政府は2001年のILO総会で、「当該団体と誠実に交渉・協議する」ことを約束し、その後総会・基準適用委員会は日本政府に対して「公務部門の当該労働組合団体との社会的対話を促進する」ことを求めた。しかしながら、日本政府は労働組合と交渉することも協議することもなく、一方的にことを進めた。このことは基準適用委員会の勧告と第87号条約に明らかに違反する。

579. 内容に関しては、日本政府は再びILO勧告と労働組合の要求を無視し、「官公労働者の労働基本権の現行の制約を維持し、一方で適切な代償措置を保証する」ことを決定した。しかしながら、公務員制度改革大綱は、人事院の人事管理権限を大幅に削減する一方で、内閣と各大臣の人事管理権限を大幅に強化することを規定している。かくして日本政府は、結社の自由委員会の第236次報告で指摘されたように、現状でも不十分な人事院勧告制度をさらに弱体化しようとしている。

580. 提訴組合は、提訴状に公務員制度改革大綱の文言と公務員制度改革の経緯を添付しており、その概要は以下のようにまとめることができる。
- 1997年5月:公務委員制度改革に関する首相の諮問機関として公務員制度調査会(労働組合代表も含む)を設置
- 1999年3月:調査会は基本答申を出し、作業を継続
- 調査会の答申に不満な政府は、独自の研究会を設置し2000年12月には(国家公務員制度を抜本的改革するための政策を含む)行政改革大綱が閣議で決定されるに至った。
- 2000年12月:首相を本部長とする行政改革推進本部を設置し、内閣官房にその事務局を設置した
- 2001年3月:政府は公務員制度改革の大枠を決定
- 2001年6月26日:政府は「公務員制度改革の基本設計」を発表
- 2001年12月25日:「公務員制度改革大綱」を閣議決定
提訴組合は、その過程の各段階において彼らの意見を最終案に反映させるように求めて何度も申し入れをしたが、受け入れられなかった。それは、意味のある協議・交渉が行われなかったことを意味する。

581. 2002年3月25日の追加情報では、提訴組合は国家公務員法、地方公務員法および国営企業・特定独立行政法人労働関係法のもとでの、公務員に対する結社の自由侵害の事例をいくつか提供している。

582. 団結権に関しては、
- ILO監視機構による再三の批判にもかかわらず、日本政府による第87号条約批准後36年を経た今日でも、刑務職員、海上保安庁職員および消防職員は団結権を否認されている。現在11,500人の消防職員を代表する186団体が、1977年8月に設立された全国消防職員協議会の下に結集しているが、あらゆる努力にもかかわらず、全消協は、法制上の障害と当局からの干渉によって、自主的団体を設立することを妨げられている。消防職員委員会制度が6年前に創設された。そうした委員会が存在するところでは、委員会は労働環境の改善に貢献してきたが、当局側の協力が無いためにまだ不十分であり、今なお解決すべき多くの問題がある。職場委員会が設置されていない職場は相当数あり、そうした職場では問題はさらに劣悪である。
- 登録制度は、職員団体結成にとっての重大な障害であり、事前の認可なしに団体を結成するという権利を否認することに等しいものである。たとえば、特定独立行政法人に移行したおよそ18,000人の非現業職員は国営企業等労働関係法の適用を受けることになり、それまで所属していた職員団体を辞めなければならなかった。地方公務員組合については、自治体或いは公営企業ごとに独立の組合を作ることが登録のための要件とされており、これが組合を細分化する効果を持っている。
- 管理職員の範囲はあまりに広範囲で、しばしば一方的に決められる。これが職員団体の組合対象者の減少をもたらす。提訴組合は、奈良県大宇陀町の例を挙げ、不当に拡大された解釈が組合の運営に支障をきたし、解散寸前の状況に追い込まれたとしている。
- 現行法制では、使用者の自由裁量に委ねられていることから、組合専従役員を自由に選ぶことが妨げられている。
- 政治的活動は全面的に禁止されており、刑事罰を課される。
- 公務員には労働委員会制度が適用されないことから、不当労働行為に対して民間部門労働者と同一の法的保護を受けられない。

583. 団体交渉権に関しては、
- 非現業公務員(地方レベル)を代表する組合は、基本的な勤務条件について交渉し、書面で合意することはできる。しかしながら労働協約を締結する権利は法的に認められていないことから、当事者を拘束するものではなく、勤務条件法廷主義の下で実効を伴わない。
- 交渉事項の範囲は、「管理運営事項」が拡大解釈されていることから、不当に制限されており、実際には勤務条件に密接に関連する問題もしばしば協議事項から排除される。

584. 争議権に関しては、
- 政府は、不可欠業務の範囲を拡大し、国家公務員、地方公務員、公営企業のすべてを「国家の行政に従事する公務員」と見なして、彼らの争議権を一律・全面禁止している。
- 争議権の禁止規定に反した者に対しては、重い刑事罰と行政処分が課される。

585. 公務員の労働基本権制約の代償措置に関しては、
- 人事院制度は、代償措置としての機能を果たしてない。1997年以降、労使間で達した合意が、自治体議会による労使合意を覆す決定によって、その一部もしくは全部が実施されない事態が発生している。例えば1997年には、指定職については勧告の実施が一年間見送られ、1999年には、上級行政職の給与引き上げ勧告は見送られ、2000年には、給与改定勧告は見送られ、官民格差は扶養手当ての引き上げによって一部が解消されるにとどまった。
- 自治体においては、労使は地方公務員法のもとで労使交渉を行い、合意事項は地方議会に上程されて、決定される。1997年以降、1997年に沖縄県の浦添市、1998年に宮城県矢本町、熊本県岡原村、1999年に東京都荒川区、福岡県高田町など、労使合意の一部もしくは全部が却下された例が発生している。
- 国営企業においては一部の勤務条件は交渉できるが、賃金は政府・財政当局の決定に左右される。法律が施行されて以降、一度も自主解決した例はなく、常に中央労働委員会の調停及び仲裁に訴える必要があった。しかし裁定は労使双方を拘束するものの、閣議の了解がなければならず、そして最近では郵政および林野職員の事例のように、国会による承認を必要とする場合もある。

586. 要するに、提訴組合は公務員制度改革大綱に強く抗議し、閣議決定を撤回するよう求めたが、不首尾に終わっている。日本政府は、改革大綱に基づいて国家公務員法と地方公務員法の改定作業を進めており、これは結社の自由、とりわけ第87号および98号条約をはなはだしく侵害するものである。公務員法改正案は2002年12月にまとめられ、2003年に国会に提出される予定である。提出されれば連立与党によって可決されるだろう。改正案が提案通り承認されれば、このILOの諸原則に対する違反は、日本だけでなく、他のアジアおよび東アジア諸国の公務員にとって、そしてまた世界中で国際労働基準の尊重を維持するという点からILOにとっても、深刻な事態をもたらすであろう。

第2183号案件

587. 2002年2月15日付の書簡のなかで、全労連は自らが22産別組織、47単組、合計147万の組織人員を擁する日本の労組ナショナルセンターのひとつであることを説明している。その加盟組織である、自治労連、全共及び国公労連は、さまざまなレベルの合計53万人の公務労働者を代表している。

588. 全労連の申し立ては、本質的に第2177号案件と同じ問題に関するもので、公務員制度改革大綱に関する閣議決定をめぐるものである。提訴組合は、争議権の全面禁止と団体交渉の制限を含む公務員の労働基本権に対する現行の制約が維持されることを当該労働組合に知らされたのは、その決定が下されるわずか数日前のことであったと述べている。このことは、2001年のILO総会における日本政府のこの件にする公約と、同年「日本政府が当該労働組合との誠意ある対話を行うことへの希望を表明し」、「当該公共部門労働組合団体との社会的対話を奨励するために日本政府が努力することを」を訴えた総会委員会の勧告に反して、日本政府は「誠意をもって職員団体と交渉・協議する」ために必要なあらゆる努力を払ってこなかったことを示している。

589. 加えて、閣議決定された文書のなかで述べられている改革の意図する内容は主に公務員の一般行政職に関するもので、その他のカテゴリの国家公務員や地方公務員及び教員に関する改革は全く検討されてない。にもかかわらず、日本政府は現行の制約をすべての公務員に対して一律的に維持すると言明した。さらには、政府は2003年の国家公務員法改正に伴って地方公務員に関する法案も導入することを明らかにしている。

590. 2001年6月に「基本設計」が決定された時に、政府は再検討の過程で現行の労働権制約について検討すると述べた。国公労連と他の公務員組合はこの提案を受け入れ、賃金決定制度を含む勤務条件については別個に交渉。協議することを要求し、同時に労働権の完全回復を基本的要求とした。何度も交渉・協議がplp回れたが。政府は「労働基本権の問題は政治的に解決すべきである」と主張したために、何の進展も得られなかった。このことは、既存の制度が一様でないにもかかわらず、現行の制約を維持することを決めていることを示している。

591. 改革大綱では、ILO監視機構からの再三の批判にもかかわらず、いまなお問題になっている以下の点について何ら言及してない。
- 消防職員の結社の自由の権利の制約
- 「管理運営事項」とか「管轄外」との理由で一定の問題を交渉項目から排除しており、その結果公共当局の裁量によって団体交渉権が制約されること
- 政府および地方自治体による頻繁な労働基本権侵害。政府と自治体当局は人事院や地方人事委員会によって出される給与勧告を「財政的理由」を根拠にして再三にわたって無視したり、公務員の給与水準引き下げを一方的に決定する。
- 人事院と地方人事委員会に労働者の代表を入れることを拒否していること
- 国の行政に携わる公務員」の定義を拡大することによって、国家公務員の権利を制限し続けていること

592. 日本が1965年に第87号条約を批准した後に、政府は「公務員制度改革審議会」に残された「3つの課題」(消防職員の団結権、交渉決裂の際の仲裁方法、刑事罰)について検討し続けることを言明した。こうした問題を検討するために公務員問題連絡協議会が1973年に設置されたが、なんら積極的な結論を出すことなく1997年に解散した。日本政府は、今回の公務員制度改革は抜本的なものであると繰り返し述べてきた。

593. 大綱は、「内閣と大臣は人事・組織的問題を機動的かつ柔軟に管理する」とはっきりと述べている。これに関しては、「各大臣の制度的役割は、自らの判断と責任で人事及び組織を設計し、管理する「人事管理権者」として明確に定義される。」さらに内閣は、「人事管理計画を設計し、作成する役割を積極的に果たす」。これに関連して、大綱は、人事院の機能を改定することを提案しており、これは現行の機能を単なる「事後管理」にまで縮小しようとする企てである。労働基本権制約の合理性を説明しなければならない時に、政府はいつも代償措置としての人事院の存在を引き合いに出してきた。しかしながら、大綱の中で提示されている現行の公務員制度改革の実体は、人事院の機能と管轄権を縮小することを意味する一方、政府と省庁の人事管理に関する管轄権を拡大することを意味する。人事院の代償機能については、その不十分さを公務員組合が長年にわたって批判して来たが、それがさらに縮小されることになる。

594. 大綱の中に示されている改革は、個々の労働者の能力と成績に基づく個別的な給与制度の導入も含む、職員の勤務条件決定における政府と省庁の権限範囲を拡大することにつながる可能性もある。したがって、全労連と他の公務員組合は、政府に対して労働基本権の回復を検討するよう要求してきた。さらに、新しい公務員制度についても、労働基本権の制約と人事院の代償機能を一体として、切り離すことは出来ないとした政府の国会での発言を考慮にいれて、検討することを求めた。しかしながら、上述のように、政府は労働権制約の現状維持を一方的に宣言し、労働者団体の要求に応じてこなかった。人事院の代償機能を削減しようとする一方で、政府は労働基本権制約の問題に取り組むことを拒否している。公務員制度改革大綱の内容から考えると、公務員制度改革が労働基本権のさらなる侵害につながることを、公務員組合は心配している。

595. 政府は、公務員の勤務条件に関する各種制度の改革は、改革大綱のなかで示された基本計画にしたがって、内閣の行政改革推進本部によって実施されると述べた。しかしながら、この推進本部のメンバーの半数は人事院からの異動による人々である。これは「基本設計」において政府が「人事院の協力」を要求した結果である。また公務員制度改革の実施において「人事院のさらなる協力」が画要求されることも強調されており、これは人事院の代償機能を無力化し、有名無実化することを示唆している。政府が主張する勤務条件法定主義の下で実施されれば、公務員制度改革は給与決定基準の改定などの勤務条件の改定以外の意味は持ち得なくなる。労働者の利益を守るために労働者に保障されるべき基本的な権利に対する制約を維持する一方で、そうした制約の代償であるはずの人事院の役割を縮小するような改革を促進することは、ILO第87号と98号条約を侵すものであり、政府の労働基本権軽視の姿勢を反映している。

596. 全労連の申し立てを補足する書簡の中で、自治労連は地方公務員の状況にもあてはまる本質的に同様の主張を取り上げており、有意味な交渉と協議が欠如していることを確認している。

597. 自治労連によれば、改革大綱は、国家公務員制度と共に地方公務員制度も再編しようとする政府の意向をはっきりと示しており、その基本姿勢は争議権の全面禁止と団体協約締結権(地方公営企業などで働く職員にのみ認めらる)の制限を含む労働基本権制約を維持することである。自治労連は、自治体労働者の産別組織として、深刻な危惧と懸念を抱いている。大綱は、(代償機関として機能する第三者機関であると政府が言っている)人事院の権限を削減すること、そして給与及び勤務条件決定制度における公務労働者の使用者の規制権限を拡大することによって、労働基本権を大幅に縮小するものである。

598. 例えば、政府は、地方公務員の争議権の全面禁止と団体交渉権の制限は、「地方人事委員会」が代償機能を持っているので、第87号条約には違反しないと主張している。しかし、実際には、過去にも現在においても、県と政令都市以外では、市町村の圧倒的多数の自治体でそうした地方人事委員会が設置されてない。このことは、政府の主張が事実無根であることを証明するものである。

599. 公務員制度改革大綱は、国家公務員制度を改造しようとする考えに基づくものである。大綱は、地方公務員に関しては、「地方自治の精神に基づいて、国家公務員制度の改革に準じて必要な変革が行われる」としているが、地方公務員に特有の問題は配慮されておらず、公務員制度改革に関して当該労働組合との協議も交渉も行われず、地方自治体の長やその他の関係者とのヒアリングも協議も全く行われなかった。にもかかわらず、大綱は、地方公務員の労働基本権に対する制約は維持されるべきであると主張している。

B. 政府の回答

総論

600. 2002年9月16日付けの文書の中で、日本政府は公務員の労働基本権に関して全般的に説明し、公務員の労働基本権について、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、国民全体の共同利益の保証という見地からの制約を逃れられないものとしている。日本の公務員法制もこれを基本としている。非現業国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、公務員の地位の特殊性すなわち公務員の使用者は究極的には国民であり、公務員の給与等は国民の負担において支払われるものであることにかんがみ、国会の予算審査権及び立法権に服すものであるとしている。しかしながら、公務員は労働者として保証されるべき権利を持たねばならず、人事院勧告制度等の代償措置が講じられている。具体的には、労働基本権に対する制約の代償措置は、身分保障、勤務条件法定主義、給与勧告制度、勤務条件に関する措置要求制度、不利益処分に関する不服申し立て制度等により構成されているものである。かくして労働基本権制約の代償措置は制度的に保障されている。また、非現業地方公務員についても、同様の理由により、その給与等の勤務条件は法律並びに議会の予算議決権及び条例制定権に服させることとされている。また、人事委員会が人事院と同様の機能を果たしているほか、長、議会その他の機関は勤務条件が社会一般の情勢に適応するよう随時適当な措置を講ずべきことが義務づけられている。政府によると、最高裁判所が1973年4月25日の全農林国家公務員法違反被告事件に関する大法廷判決において、労働基本権制約に対する代償措置は制度上整備されていると判示している。国営企業等の職員については、団結権及び団体交渉権(協約締結権を含む)が認められているが、争議権については認められていない。

601. そうした全般的な背景の中で、政府は近年新たな時代の要請に対応した行革システムを構築するために、中央政府の改革を含むさまざまな改革を進めてきた。同時に、公営企業、公務員制度及びその他の行政組織・制度の改革を求める一般からの要請もあった。これを受けて、行政改革大綱が閣議決定され、そこでは公営企業、公益法人及び公務員制度の改革にとりわけ重点が置かれた。公務員人事制度の見直しも含むこのプロセスで積極的な役割を果たす行政改革推進事務局が内閣官房に設置された。行政改革推進事務局はその後「公務員制度改革の基本設計」を策定し、2001年12月25日には「公務員制度改革大綱」が閣議決定された。推進事務局は引き続き大綱を細部にわたって検討しており、2003年末までに国家公務員法の改正案が国会に提出され、2005年度に新制度を導入できるようにする。内閣官房に公務員制度の企画立案権限がないという連合の主張は誤りである。なぜなら内閣法第12条第2項第2号においてそのような権限が規定されているからである。

602. 公務員制度改革の大枠に関して協議が行われなかったとする主張に関しては、政府は、この文書は内閣と政府との間を調整するための全般的な暫定的計画に過ぎず、職員団体と協議するような性格のものではなかったことを指摘している。他方、その後に改革推進本部によって決定された公務員制度の基本設計は、新たな公務員制度の骨格と検討課題を示している。これは合計14時間にわたる、27回の交渉を経て決定されたものである。したがって、これは一方的な決定によるものではない。

603. 公務員制度改革大綱は、法制の方向を示したものである。その決定に至るまでに77回、合計66時間の交渉と協議が行われた。労働基本権の制約は極めて重要な問題であり、当局はこの問題を検討するために時間が必要であった。この件に関する方針が2001年12月18日になってようやく職員団体に提示されたのはそうした理由からである。方針の策定・決定に先立って、政府は政府の見解を説明し、職員団体と話し合い、労働基本権の制約は維持されなければならないことを示してきたを指摘しておく。かくして政府は、話し合い、協議及び交渉は誠実に行われ、この点に関する連合の申し立ては成り立たないと考える。

604. 改革の内容上の問題点に関する申し立てについては、政府は、「公務の安定的・継続的な運営の確保の観点、国民生活へ与える影響の観点等を総合的に勘案し、公務員の労働基本権の制約については、今後もこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持することとする」と指摘している。この文書では、「人事院は、給与等の勤務条件の設定について引き続き関与する」ともしている。これは、制約に対して適切な代償制度を維持しようとする政府の意向を反映している。政府は、この問題の重要性を十分に認識しており、その過程において十分に検討してきた。しかし、現行の制約を変更するという結論には至らなかった。政府にとっては、人事院の代償機能はILOの原則を踏まえて適切に運用されており、例えば公務員の勤務条件は民間部門と同一の水準に維持されてきた。

605. 公務員制度改革大綱は、人事管理権者の責任と権限を明確にして、彼らの任務を十分に果たせるようにすることを目指しているが、人事院の代償機能は維持され、今回の改革によって代償機能が決して低下することはない。政府は労働基本権についてのILOの見解を理解しているが、公務員の労働基本権の問題は各国の歴史的、社会的背景を踏まえて決定されるべき問題であると考える。日本社会における公務員に対する現在の国民感情、その他の個別事情を考慮に入れると、政府はこの問題の取り扱いには慎重にならざるを得ない。

606. 行政改革を進める中で、政策の企画機能と実施機能を分離するために、独立行政法人を通じて公的事業が民間部門に移行されている。2001年4月からは、国の一部の事業(国立博物館、美術館、研究所等)が57の独立行政法人に移行されており、そこでは労働協約締結権は国営企業における状況と同様である。2002年1月1日現在で、独立行政法人で働く職員は16,564人となっており、今後も移行される人数が徐々に増える予定である(統計センター、国立病院、療養所等)。政策執行事務の独立行政法人への以降が拡大するについて、協約締結権を持つ公務員の人数は拡大することになる。

607. 人事院職員の異動に関する連合の申し立てに関しては、政府は行政改革推進事務局の約半数が人事院出身であると述べている。彼らは行革推進事務局の職員として任務を遂行するために任じられたものであり、人事院の独立性に影響を与えるものではない。

608. 公務員制度改革大綱は、地方公務員制度は地方自治の原則を尊重し、地方自治体の実情を十分に勘案しながら、国家公務員制度の改革に準じて検討されるとしている。労働基本権は国、地方を問わずあらゆる公務員に共通するものであることから、政府は現行の労働基本権の制約を地方公務員についても維持する。

609. 制度の更なる詳細は現在検討中であり、改正案について政府内部で議論されている。国家公務員法と地方公務員法の改正案を2003年末までに国家に提出する予定である。

個々の申し立て事項について

610. 両案件のなかで提示された具体的な申し立て事項については、政府はそれらのすべてを否認する、もしくはILO条約や結社の自由の原則との関連でなんら問題がないものと考える。

611. 管理職員の除外範囲に関しては、国家公務員法は管理職員等と一般職員とは利害が衝突するような関係にあるので、同一の団体に参加することを禁じていると、政府は述べている。決定は、中立的な第三者機関(人事院、人事委員会もしくは公平委員会)が職務内容に基づいて下されたものであり、専門家委員会によって容認できるものとして承認されている。1966年6月21日付の行政通達のもとで、課長補佐は管理職員として見なされている。連合が指摘した奈良県大宇陀町のケースは現在裁判中である。したがって政府はこの点に関してなんら問題はないものと考える。

612. 専従組合役員に関しては、職員団体は、職員または職員以外の元を自由にその役員として選出することができ、公務員は任命権者の許可を得て専ら当該職員団体の業務に従事することが認められていると、政府は説明している。現実的には、業務上の支障がない場合には在籍専従の許可を与えられている。在籍専従期間については、人事院によって7年と定められており、これについては専門家委員会も容認できるものとして認めている(1994年見解、第98号条約)。したがって政府はこの点に関してなんら問題はないと考える。

613. 消防職員の団結権の否認に関しては、この問題に関する1965年の議論と意見交換から1995年の消防職員委員会を設置する決定にいたるまでの経過と現状について、政府は広範に言明している。消防職員委員会制度は、勤務条件の決定における職員の参加を保障するものである。1997年4月1日までにすべての消防本部で設置され、円滑に運用されている。例をあげると、
- 2001年には、664の消防署(71.4%)で会合が開かれ、4,912件の意見を審議している。それ以外の消防署の大半が会合を開かなかったのは、その必要性が感じられなかったからである。
- 制度発足以来、毎年ほぼ5000件の勤務条件にかかわる問題が審議されてきた。
- 審議された問題の約40パーセントについて実施が適当であると判断された(2001年は41.8パーセント)
- 桑名市では、14名の委員から成る消防職員委員会は2000年中に3回の会合が開かれ、27件の意見が提出され、そのうちの12件が「実施が適当」と判断された。
- 白老町では、委員会は6名の委員から構成され、2000年中に2回会合した。提出された12件の意見はすべて[実施が適当]と判断された。
- 政府は、引き続き消防職員委員会制度に関する情報パンフレットを全消防職員に配布し(16万部)、また研修において助言を提供するなどして、各消防署における消防職員委員会制度の円滑な適用を促進する。
要するに、政府としては、消防職員委員会は制度の趣旨に沿って円滑に機能しており、この点に関する連合からの申し立てはメリットがないと考える。

614. 海上保安庁職員と刑務所職員の団結権の否認に関しては、政府は海上保安庁職員は海上において事実上警察と同じ職務を遂行しており、第87号条約の下で警察職員と同様に見なすことができる。これについては専門家委員会も容認している(1973年の見解、第87号条約)。第60号及び179号案件(結社の自由委員会第12次報告と第54次報告)から、政府は、職務の特殊性にかんがみ刑務所職員にも同じ理論が適用されるべきであると考えている。

615. 職員団体の登録制度に関しては、この制度は職員団体が自主的かつ民主的で真正な組織であることを公証しようとするものであって、それによって職員団体の公証能力に差別を設けようとするものではないと、政府は述べている。地方公務員は地方レベルを超えて団体を作ることを認められており、連合及び総連合に加入することができる。登録制度は組合を細分化する効果を持つものではなく。したがって政府はこの点に関してなんら問題はないと考える。

616. 政治活動に関しては、職員団体の活動は勤務条件を維持改善することを主たる目的とすべきであると、政府は述べている。国と地方レベルの公務員は、不当な政治家を回避し、公務員の中立性を維持するために、それぞれ国家公務員法第102条と地方公務員法の第36条の下で、一定の政治的行為が禁止されている。日本の最高裁判所はこうした禁止の合憲性を確認している。したがって、政府はこの点に関してなんら問題はないと考える。

617. 非現業公務員の交渉権の制限については、非現業国家公務員及び非現業地方公務員には労働協約締結権は認められていないが、交渉を行うことは認められていると、政府は述べている。「管理運営」事項は交渉の対象とすることはできないが(国家公務員法第108条の5第3項、地方公務員法第55条第3項)、「管理運営事項の処理によって影響を受ける勤務条件」は交渉の対象となる。

618. 現業公務員の交渉への政府介入という申し立てに関しては、国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律弟8条のもとで、「管理運営」事項は交渉の対象とすることはできないが、ある具体的な管理運営事項が勤務条件に影響する場合には、交渉の対象とすることができると、政府は述べている。

619. 国の行政に携わる公務員に関しては、当該職員が法令による勤務条件の保障を享有しているかどうかによって判断されるべきだと、政府は考えている。政府によれば、これは、第98号条約が採択されたときのILO総会での議論と、結社の自由委員会のこれまでの決定(第12次報告・パラ43、第54次報告・パラ179、第139次報告・パラ174)に由来する。さらに政府は、現業公務員には協約締結権を含めた団体交渉権が認められていると述べている。したがって、第98号条約の適用上、この点に関してはなんら問題がない。

620. 争議権の一律・全面禁止に関しては、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ一定の制約は正当化できるものであり、日本の最高裁判所によって確認されているアプローチであると、政府は述べている。しかしながら、公務員には人事院勧告制度等の代償措置が講じられている。この点に関するILOの見解は認識しているが、政府は、各国の歴史や公務員労使関係の伝統などの諸般の事情を考慮に入れるべきであると考える。さらには、公営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律が適用される公務員の業務は、その業務の停滞が国民生活及び社会経済の安定に著しい支障をきたす可能性があることから、公共的要素のある業務と事業にかかわるものである。国営企業及び特定独立行政法人で働く公務員は、非現業公務員と同様に争議権は認められていないが、交渉権と協約締結権は認められている。争議権の禁止に対する代償措置は、ILOによって容認できるものとされている。(ドライヤー報告・パラ2144-2145)

621. 争議権の禁止違反に対する刑事罰と行政処分については、国家公務員も地方公務員も法律によりストライキを禁止されているので、この禁止規定に違反してストライキに参加した者に対しては適正に懲戒処分を行うことができると、政府は述べている。各々の当局が個々の状況を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、どのような懲戒処分が適正であるかを決定する。非現業公務員および国営企業と特定独立行政法人の職員に関しては、争議行為への参加行為は処罰せず、争議行為の遂行を共謀し、他の職員をそそのかし、扇動する者だけに拘禁刑を含む刑事罰が科される。この点に関する政府の慣行は、結社の自由委員会の原則に合致する。(第187次報告・パラ135・138)

622. 人事院と人事委員会勧告の不実施と減額勧告については、政府は以下のように述べている。
- 人事院勧告の機能は、労働基本権制約に対する代償措置として、社会一般の情勢に適応した適正な給与を公務員に確保することである。毎年4月、官民の給与を比較し、それに基づいて調整勧告を行うもので、国民の納得を得ると共に、安定した労使関係を維持するためである。国家公務員法は、5パーセント以上の改定案(引き上げもしくは引き下げ)は国会と内閣に提出されなければならないと規定している。政府は、人事院勧告を尊重する姿勢を堅持している。1982年から1985年にかけての勧告実施の見送りまたは不完全実施の措置については、当時の社会・経済・財政状況を世論による例外的な措置であった。1986年以降勧告は完全実施されている。1999年と2000年の勧告が、官民格差をすべて埋めるに至らなかったのは、人事院制度が公務員のための代償機能を喪失したことを示すものではない。むしろそれは特別な状況が原因である。1999年には、4割もの民間企業の場合と同様に、上層部の公務員の給与引き上げは見送られた。2000年には、官民給与の較差が例年になく小さく、技術的に調整を行うのは困難であったので、ボーナス引き下げが続いてもっと大きな影響を受けている職員に配慮して扶養手当を引き上げることにした。
- 地方公務員に関しては、地方公務員法第14条は、地方公共団体は、生計費、国及び他の地方の公務員及び民間職員の給与などの要素を考慮して、給与等の勤務条件が社会一般の情勢に適応するように措置を講じなければならないと規定している(国家公務員の場合と同じように、地方公民は民間労働者の給与に合わせるために賃金が削減される可能性もある)。人事委員会制度はその目的のために設置されたものである。人事委員会が存在するところでは、地方公共団体は人事委員会の勧告を実施するためにあらゆる努力を尽くしてきた。人事委員会が存在しないところでも、地方公共団体は人事院勧告に基づく給与改定を行うようにあらゆる努力を尽くしてきた。しかしながら、その地方の財政事情のせいで、給与の引上げを実施できない場合もある。そうした場合でも、給与の引き上げを全面的に抑制するのではなく、引き上げの実施が一定期間延期される措置がとられる。このような措置が講じられることは少ない。
- 日本の最高裁判所は、このことは人事委員会が代償機能を果たしてないことを意味するわけではないとの判断を下している。したがって政府は、給与決定システムは長年にわたり十分有効に機能してきたと考える。
- 連合が申し立てた代償制度の喪失に関する具体的な事例に関しては、これらの事例は、地方公共団体が経済・財政・金融情勢から給与の引き上げを即刻実施するのは不可能であるとして、実施が一定期間延期されたものであると、政府は述べている。1999年4月現在で、3,299の地方公共団体があるが、連合が指摘した事例はそのうちのごくわずかであり、ほとんどの地方公共団体においては、人事院もしくは人事委員会の勧告が実際に実施されてきた。

623. 非現業公務員に不当労働行為救済制度に関する労働組合法が適用されないことに関しては、非現業公務員は、勤務条件を改善するために職員団体を結成し、その活動に参加する権利を持っており(国家公務員法第108条の2、地方公務員法第52条)、これらの法律はこうした理由によって不当な取り扱いや差別を受けることのないようにないよう彼らを保護している(国家公務員法第108条の7、地方公務員法第56条)と、政府は述べている。交渉の応諾拒否といった不当労働行為は実際に行われていない。

624. 人事院の人事官と人事委員会委員の構成の中立性・効率性に関しては、政府は以下のように述べている。
- 人事院は3人の人事官によって構成される中立で公正な行政機関であるが、三者構成機関ではない。人事官は裁判官に準じた身分保障が与えられている(国会の訴追に基づく公開の弾劾手続きによる場合など、国家公務員法で定める特定の場合を除き罷免されることはない)。人事官は人格が高潔で、民主主義を尊重し、人事行政に関する健全な判断力と広範な知識を有する35歳以上の者でなければならない。それまでの5年間に、政治的影響力のある政治的地位に就いていたり、公選による公職の候補者になったことがあってはならない。人事官のうち2名が同一の政党に属していたり、同一の大学の卒業生であってはならない。
- 人事委員会と公平委員会の委員についても、専門的かつ中立的な見解を持つ者でなければならないことから、彼らも厳格な法律的要件を充たさなければならない。人格が高潔で、地方自治、民主主義及び人事行政に対する確たる理解があること、3名の委員のうちの2名が同一政党に属していてはならない、そして彼らは政治的活動を制限される。人事委員会と公平委員会は三者構成ではないが、選挙で選ばれた知事が、住民の代表である危害の同意を得て任命する。したがって、彼らは職員あるいは地方公共団体の利益を代表するのではなく、労働者と使用者の双方にとって公平・中立な立場で選出される。

625. 都道府県と政令都市以外の地方公共団体における労働基本権制約の代償措置に関しては、本質的には先述の人事院と人事委員会の勧告不実施に関する情報と主張を政府は繰り返しており、つけ加えて人事委員会を置かない地方公共団体は、同様の機能を持つ公平委員会を置かなければならないとしている。最高裁判所は、それらの機関は中立的な第三者の立場から公務員の勤務条件に関する利益を保証するために必要な機構を持っていると判断している(1976年5月の岩手県教員組合事件の判決)。

626. 国営企業と特定独立行政法人における仲裁・裁定制度については、労働条件に関しては団体交渉が行われ、労働協約を締結することができると、政府は述べている。国営企業の賃金と給付は国の予算支出に関連するので、労働協約の効力について一定の制限が設けられている。したがって国会による承認が必要である。これに対し、独立行政法人の予算は政府の事前の関与は受けないために、その協約や仲裁裁定に対して制限は設けられていない。

627. 最後に、公務員問題連絡会議に関しては、全労連の申し立てでは1997年に廃止されているとあるが、実際には廃止されておらず、現在も開催されており、直近では2002年7月30日に開催されたと、政府は述べている。

C. 結論

総論

 委員会は、この提訴が日本の公務員の現行制度および来るべき改革と、その改革の手続きを取り上げていることに留意する。提訴組合である連合と全労連は、かれらの申し立てを補強するために過去の具体的事例を引いて、現行制度が適切に機能していないこと、政府が現行制度の主要な特徴を維持するとしているために、その同じ問題が続くだけでなく改革により新たに生じる困難のために悪化すると申し立てている。委員会はさらに、この問題のいくつかはすでに審議され、その法的側面は専門家委員会に照会されていることに留意する。それ以外の問題は過去のILO報告および文書(実情調査調停委員会報告、いわゆる「ドライヤー報告」を含む)中で取り扱われるか、ILO総会の条約勧告適用委員会等のフォーラムにて討議の対象となってきた。双方から提出された資料の膨大さを鑑み、委員会は、有意義な議論のためには、先ず始めに当面の問題と、結社の自由の原則に照らし合わせたそれぞれの重要性に改めて焦点を当てる必要があると考える。

628. 第一に、提訴組合は過去のまた結社の自由違反と疑われる例を数多く挙げているが、委員会は、今提訴の最重要の問題は「大綱」(付属文書1として目次、前文、基本的な哲学と理由を説明する「基本的考え方」を添付)に盛り込まれている改革案であることに留意する。これまでに以前の提訴の際に検証済みである個々の問題について深入りするよりも、委員会は、この改革の主要な点にしぼり、これに適用される原則を想起することにする。委員会は、このやり方が社会対話の新たな契機となることを真に願う。

629. 第二に、政府が繰り返し歴史や公務の労使関係、社会経済状況等の各国状況に配慮すべきであると述べているように、委員会は、提訴の審議に当たってはそれら要素を考慮してはきたが、結社の自由の原則はすべての国に一様かつ一貫して適用されるべきものであると指摘する。ある国がILOのメンバーになると決断した時点で、その国は憲章とフィラデルフィア宣言に盛り込まれている結社の自由を含む各基本的原則を受け入れており〔結社の自由委員会決定ダイジェスト第4版、1996年・パラ10〕、各国政府はILO条約の批准によって課せられた責任を全面的に尊重する義務を負う〔ダイジェスト・パラ11〕。

630. 第三に、委員会は、日本政府が、法規定は正当である(例えば団結やストの禁止)、国・地方機関(例えば人事院、人事委員会、公平委員会)は適切であるとの自分の立場を正当化するのに、最高裁判決を繰り返し引用していることに留意する。委員会は、国内法が結社の自由の原則に違反している場合、当該法を検証しそれらが結社の自由の原則に則ったものになるようガイドラインを提供することは、ILO憲章と適用可能な条約に述べられているとおり、委員会の任務に含まれていると見なしてきたことを想起する〔ダイジェスト・パラ8〕。

改革の内容

631. 内容の問題については、国公法・地公法の修正案の実際の内容について、ましてや新たな制度がどのように実施されるのかについて解明するには早すぎるが、委員会は、現行の法規定と状況についても、政府がそれらを新たな法制度に盛り込もうとしている以上、意見を表明すべきであろう。委員会は、目次が示すように今回の改革案は野心的なものであるが、政府は現行制度の主たる要素のいくつかを保持すると明言しており、それにはある種の公務員に対する団結の禁止、大多数の公務員にとっての団体交渉権の欠落、労働基本権が制約されている労働者のための代償措置の機関と方法、スト権の広範な禁止が含まれていることに留意する。

団結権

632. 団結権に関して、委員会は、すべての公務員は民間部門と同じく、自らの選択に基づいて組織を結成してその権利を守るべきであることを想起する〔ダイジェスト・パラ206〕。唯一可能な例外は軍隊と警察であり、87号条約第9条に示されているとおり、限定的な方法により定められるべき例外である。消防職員と監獄職員は団結権を与えられるべきである〔同趣旨で、「結社の自由と団体交渉」一般調査、1994年、第81回ILO総会・パラ56を参照のこと〕。消防職員委員会に関する政府の見解に留意しつつ、委員会は、この問題は1965年から取り上げられており、誤解の余地のない結社の自由委員会および専門家委員会勧告が数多く出されており、2001年総会条約勧告適用委員会を含む多くの会議の場でも討議されていることを想起する。政府は消防職員委員会がスムースに機能していると述べているが、提出された資料は同委員会がすべての職場にあるわけでなく、存在する場合でも問題があることを示している。肝心なことは、日本の消防職員は団結する自由を持たず、かれらを代表する組織は団結権を求め続けていると言うことである。団結権とスト権は別物であることを想起し、委員会は政府に対し、法制度を変更して消防職員および監獄職員が自らの選択による団体を設立することが出来るようにすべきであると要請する。

事前承認なしでの労働者団体の登録

633. 連合は、18000人の非現業職員が独立行政法人への移管に伴い国営企業独立行政法人労使関係法の管掌下に入ったため、それまで加入していた組合から脱退せざるを得なくなったと指摘している。また連合は、一つの職場にひとつの組合を設立しなければならない地方公務員の現状が、組合を細分化する効果を有していると指摘している。連合はしたがって、登録制度が組合結成の主たる障壁となり、事前承認なしでの団結権を否認しているに等しいと論じている。これに対し政府は、この制度は職員団体が正統で、独立しており民主的であることを検証するために置かれており、また地方組織は産業別組織やナショナル・センターに加入することが出来ると反論している。

634. 地方従業員団体については、委員会は1974年にすでに日本政府に対する提訴の際に審査しており(737〜744号案件、139次報告・パラ95-220)、「実情調査調停委員会報告がすでに指摘しているとおり、登録制度は地方公務員の団体を縦横の小単位に分割した状態を永続化する効果を持つものである」と結論を下している。組合の過度の細分化が、組合とその労働者の利益を守る活動を弱体化することを考慮し、委員会はただこの見解を繰り返し、法制度改革の一部として適切な改正が為され、地方レベルの公務員が事前承認に等しい処置にとらわれることなく自らの選択に基づく団体を設立することが出来るようにすべきであると勧告する。

635. 独立行政法人に移管された18000人については、提出された資料からは、移管によって彼らが事前承認なしで自らの選択に基づく団体に加入することを妨げられたと判断することはできない。従って委員会は政府と連合に対し、さらに情報を提供するよう要請する。

管理職の除外の範囲

636. 管理職の交渉からの除外について連合は、管理職の範囲は時に広すぎ、また一方的に決定されると指摘している。事実上組合が破壊されたひとつの例を挙げている(奈良県大宇陀町)。政府は、これは中立的な第三者機関の職務範囲に基づく決定によるものであり、大宇陀町の件は現在裁判に掛けられていると返答している。

637. 委員会は、次の2つの条件を満たせば、管理職に労働者と同一の組合に加入する権利を否定することは87号条約第2条の要求と必ずしも相容れないものではないことを想起する:まずそのような労働者が自らassociationを結成して利益を守ることができること、それからその範囲をあまりにも広範に規定して他の労働者の団体からメンバーを奪うことによってその組合を弱体化することがないようにすることである〔ダイジェスト・パラ231〕。加えて、使用者が労働者を不自然に昇進させることによって労働者団体を弱体化することを許す法規定は、結社の自由の原則の違反にあたる〔ダイジェスト・パラ233〕。提出された資料からは大宇陀町の例をもってして、委員会はこれが孤立した例なのか全体的な問題を反映したものなのか判断する立場にはない。しかし委員会は、1997年7月4日に当局が組合の委員長、副委員長、書記長を課長補佐(assistant chief)に昇進させたことに始まり、1998年5月に公平委員会が職員団体登録を停止し、1999年2月1日にその措置を取り消したという経過に留意する。組合が起こした裁判はなお係争中である。したがって委員会は、上記の管理職の除外に関する原則に対して政府の注意を喚起し、そのような決定は中立なだけでなくすべての関係者により中立であると見なされている機関によってなされなければならないということを強調する。大宇陀町の職員団体登録が取り消され、また紛争の発生から5年以上が経過していることに懸念と共に留意し、委員会はこの訴訟が直ちに終了することを強く希望し、政府に対し判決が出次第情報を寄せるよう要請する。

専従組合役員

638. 連合は、労働者が専従役員を務めながら公務員の地位を保持するに当たっての許可は、全く使用者の裁量に任されていると指摘する。政府は、実際には専従役員を務めるために、業務に支障を来さない限り、休職が許され、人事院はその上限を7年(更新不可)と定めていると回答している。委員会は、結社の自由には労働者がその代表を自由に選ぶ権利を含むと考えられていること〔ダイジェスト・パラ350〕、役員の任期の決定は組合自身に任せられるべきであること〔ダイジェスト・パラ359〕を想起する。したがって委員会は、法制度改革の一部として適切な改正が為され、公務員が彼らの専従役員の任期を決定し、労働者が自らの代表を完全に自由に選ぶ権利が法制度および実際上確保されるようにすべきであると勧告する。

スト権

639. スト権に関して政府は、公務員の特有の性格と義務により、全面的な禁止が正当化されうると繰り返している。将来の法制度においてもこの全面的禁止を保持するとしている。

640. 委員会は、スト権に関する数多くの原則の内、とりわけ、スト権は労働者とその団体の基本的権利であること、および次に挙げる少数の例外を除き、民間・公務双方の労働者に認められるべきであることを想起する;その例外は、軍隊および警察の構成員、国家の名において権力を行使する公務員、厳密な意味においての不可欠業務に従事する労働者、および国家の非常事態の場合である。この権利を奪われている、もしくは制約されているために自らの利益を守る重要な手段を失っている労働者は、その禁止もしくは制約を代償するための適切な保障が与えられるべきである。例えば、十分で全面的かつ迅速な、関係者がそのすべての段階に関与できる調停・仲裁手続きで、その裁定が一旦出されれば完全かつ直ちに実施されるような制度である。加えて、正当なストの実施に対して、労働者と組合役員は罰せられる(特にこの例においては、現在実施されているように、重い刑事罰や行政処分に処せられる)べきではない。これらについて詳説されている原則を参照のこと(ダイジェスト・パラ473-605)。したがって委員会は政府に対し、改革の一部として法制度に適切な改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう勧告する。

団体交渉

641. この点について提訴が取り上げているのは、団体交渉を行えない労働者の範囲、交渉事項の範囲の過度の制限、交渉制限に代わる代償措置の不十分さ、代償措置機関の勧告の不満足な実施、である。

642. 委員会はこの点に関しては、論点のいくつかは双方の提訴が取り上げ、いくつかは片方のみが取り上げていること、また政府回答も双方に応えていたり片方のみであったりすることに留意する。したがって委員会はここでも、すべての論点ならびにすべての提訴について事細かに論じることをせず、提訴と関係のある主要な原則を取り上げることにする。

643. 団体交渉権を全面的にであれ部分的にであれ認められていない労働者のカテゴリについて、委員会は、これは労働者の基本的権利であること、また軍隊及び警察、国家の運営に関与する公務員という唯一の例外を除いて民間・公務両部門の労働者にあまねく認められるべきであることを想起する。職務上国家の運営に直接関与する公務員(政府省庁およびその同等機関で雇用される公務員)およびこれらの活動において補助的役割を演じる公務員と、政府、公的事業、自治的公共団体等に雇用される人々との間には区別を付けねばならない。前者のカテゴリのみ、98号条約の適用範囲から除外されうる〔ダイジェスト・パラ794〕。専門家委員会はまた、公務員がただホワイト・カラーであることのみで国家の運営に関与する従業員であるに足るとは言えないと強調している。こうでなければ98号条約はその適用範囲の多くを失ってしまうであろう〔一般調査・パラ200〕。まとめるに、すべての公務員は、軍隊および警察、国家の運営に関与する公務員を唯一の例外として、団体交渉権を享受すべきである。したがって委員会は、改革の一部として法制度に適切な改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう勧告する。

644. 進行中の公務員制度改革は主に一般行政職公務員を取り扱い、その他の公務員(自治体職員および教員)について検証されていない、との全労連の提訴(2177号案件 ※訳注 2183号の誤りと思われる)について、委員会は上記の原則は彼らに対しても同様に適用可能であることを指摘する。ことに教員について委員会は、教員は団体交渉権を持つべきであるとした岡山県高教組に関する最近の判断(2114号案件、328次報告・パラ371-416)、および今次報告の導入部にあるそのフォローアップ・コメントに言及する。

645. 交渉の範囲について委員会は、連合も全労連も、交渉から排除される項目が広範囲すぎると指摘していることに留意する。両組合は、さらに改革によって、より多くの労働条件が法律によって規定されることとなり、これは将来におけるさらなる悪化を意味するとつけ加えている。政府の回答は、operationalおよびnon-operationalセクター(これらのカテゴリに何が含まれるのか説明はない)の双方において「管理または運営」事項は交渉不可能であるが、管理および運営事項によって影響をうける労働条件については交渉されうる、としている。委員会は、特定の事項は本来的もしくは本質的に政府業務の管理運営に属することでありしたがって交渉範囲外であると見なされ得るが、それ以外は本来的もしくは本質的に就労条件に関わる問題でありしたがって団体交渉の範囲外であると見なされるべきではない〔ダイジェスト・パラ812〕、ということを想起する。委員会は政府に対し、改革との関連についてこの問題に関する労働組合との対話を持つよう要請する。

646. 労働基本権が制約されている公務員の代償措置について、連合と全労連の両方が、現行システムの不十分さ(国・地方レベルの機関による勧告の凍結および実施遅延)、改革によって将来人事院の役割が縮小され、それに対応して政府と内閣の権限が拡大されることを批判している。また両組合は、圧倒的多数の市町村では地方人事委員会が設けられていないことを指摘してもいる。政府は、大綱の前文で述べているとおり、新たなる挑戦に応えてその変化する状況と社会の要請に適応するためにはドラスティックな公務員制度改革が必要であると述べている。人事院勧告が実施されなかった事例については、それらは多数を占めてはおらず、発生するのは財政難の場合のみであり、いずれの場合でも人勧は完全に無視されるのではなく実施が延期されただけであると回答している。

647. 委員会はまず、公務員制度改革を開始し実施するかどうか、どのような機関をもってその任に当てるか、人事管理に関するより多くの責任を各省庁と大臣に移管するかどうか、これまでは公務部門が提供していたサービスを民間や半官半民機関に移管するかどうかを決定するのは、政府の執行責任の一部であることを指摘しなければならない。しかしながら、改革の途上で政府が、団体交渉権を与えられるべき労働者に関して上記で想起した結社の自由の原則に則って振る舞っているかどうかを検証することは、明らかに委員会の任務の範疇である。その他の労働者に対する代償措置について委員会は、大綱の中で政府が現行と同様のシステムを維持し人事院の役割を縮小するとしていることに留意する。委員会は、繰り返し日本のこの問題について見解を表明し(例えば139次報告・パラ122、142次報告・パラ125、222次報告・パラ164、236次報告・パラ270等、20年以上にも渡って出されてきたもののいくつかを参照)、雇用の諸条件を決定するこの方法が関係者の信頼を得ているかどうかについて疑義を呈してきたことを想起する。委員会は、公務における団体交渉のような基本的権利が禁止されているもしくは制限されている場合にはいつも、自らの職業上の権利を守る重要な手段を奪われているそのような労働者の利益を全面的に守るため、十分な保障、例えば公平かつ迅速な、関係者がそのすべての段階に関与できる調停・仲裁手続きで、その裁定が一旦出されれば完全かつ直ちに実施される手続き、が整備されるべきであると、数度に渡って指摘しており、またここで想起する。委員会が古くは1974年に指摘しているとおり、様々な利害が審議会の数的構成に正当に反映されるよう、また審議会委員の任命について関係諸団体が同等の権限を持つことの適否を検討出来るような措置を取ること〔139次報告・パラ162〕は可能であった。提供された証拠によれば、近年意味のある変更がなされた形跡はなく、これらの基本的問題に対する大綱の対応は、委員会にはいささか理解しがたい。したがって委員会は、改革の一部として法制度に適切な改正が為され、これらの原則に則ったものとするよう勧告する。

不当労働行為

648. 委員会は、提訴団体(不当労働行為について公務員は民間労働者と同等の保護を享受していないと述べている)と政府が相反する報告をしていることに留意する。委員会は両者に対し、これに関する法と慣行についてさらに情報を提供するよう要請する。

協議プロセス

649. 委員会はこの問題について、提訴組合と政府の立場が全く相反するものであることに留意する。連合は、繰り返し労働基本権の制約を維持することに反対であると言明し、現行の代償措置に対する不満を表明してきたにもかかわらず、現行を維持するとした「大綱」に見られるようにその意見は全く入れられなかったと述べている。全労連および自治労連も同様の見解を述べている。政府は、最初の文書については労働者団体と協議する意図は全くなく、次の文書については実際に協議を行ったと述べている;公務員制度改革の枠組について27回14時間、「大綱」について77回66時間。「大綱」を労働者団体に提示するのが閣議決定の7日前になったのは、当局がこの重要な問題を検討するのに時間がかかったせいだと述べている。

650. 委員会は、労働組合権に影響を及ぼすすべての問題および法制改革案について、全面的かつ率直な協議がなされることの重要性を強調してきた〔ダイジェスト・パラ927〕。特に、団体交渉と雇用条件に影響を及ぼす法案の導入に先立って全面的かつ詳細な協議を実施することの重要さについては、各国政府の注意をしばしば喚起してきた〔ダイジェスト・パラ930-931〕。加えて、政府自身が実質的もしくは間接的に使用者の役割を演じる場合の交渉構造の変更を意図する場合には、十分な協議プロセスを踏むことが極めて重要である。それによって国民全体の利益に関わると考えられる問題について、すべての関係者との協議を実施できるのである。そのような協議は、善意に基づいて実施され、双方が決断を下すに必要な情報を持っているものであると含意されている〔ダイジェスト・パラ941〕。政府が認め、「大綱」の前文に記載されているごとく、計画中の公務員制度改革は徹底的なものである。したがって、50年来の、数多くの公務員に影響を及ぼす大規模な改革が実施されるに当たっては、有意義な協議が善意に基づいて実施されることが、なおさら重要であろう。提示された証拠および論点に基づき、委員会は、数多くの会議が持たれたにも係わらず、国および地方公務員を代表する団体の見解は聞き置かれはしたが、それらに基づく行動は執られなかったと結論せざるを得ない。政府は、実用上現行システムは憲章と結社の自由の原則に合致しており、基本権の制約は公務員の特殊な地位と義務に照らして適正であり、現行の代償措置は真っ当に機能しており、つまり、現状を維持するべきであると述べている。政府が、「大綱」を閣議決定の7日前に初めて労働者団体に提示したのは、当局がこの重要な問題を検討するのに時間がかかったせいだと述べている点については、委員会は、この問題は労働者団体にとっても同様に(より以上にではないにしても)重要であり、労働者団体は政府の提案を検証し対案を提起するのにより時間がかかったであろう点を指摘する。決定を下さねばならない時は至るということを認識しつつも、委員会は、この問題についてより広範な合意を得るという目的で、公務員制度改革の意義と内容について全面的で率直かつ有意義な協議が実施されることは、すべての関係者にとって、また公務部門における安定した調和的な職業関係の発展のために有益であると認識する。この状況において、法案が2003年末に国会に提出される予定であることを鑑み、委員会は政府に対し、関係するすべての団体と広範な協議を速やかに開始し、法案要綱と慣行を結社の自由の原則に合致したものとするように勧告する。

委員会の勧告

651. 前述の中間的な結論を踏まえ、委員会は理事会に対し、次の勧告を承認するよう求める:

(a) 日本政府は公務員の労働基本権の現行の制約を維持するという、その公表した意図を見直すべきである。
(b) 委員会は、この問題についてより広範な合意を得るため、また法制度を改革して結社の自由の原則に則ったものにするという目的で、公務員制度改革の意義と内容について、関係する全ての団体と全面的で率直かつ有意義な協議がただちに実施されるよう強く勧告する。これらの協議はとりわけ、日本の法制度および慣行が87号および98号条約の規定に違反しているということに関して次にのべる事項を取り扱わねばならない。
  (i) 消防職員と監獄職員に自らの選択に基づく団体を設立する権利を与えること
  (ii) 地方レベルにおける登録制度を修正し、公務員が事前承認に等しい処置にとらわれることなく自らの選択に基づく団体を設立することが出来るようにすること
  (iii) 官公部門労働組合が専従役員の任期を自ら定められるようにすること
  (iv) 国家の運営に直接関与しない公務員に、結社の自由の原則に則って団体交渉権とスト権を与えること
  (v) 結社の自由の原則の下で団体交渉権とスト権のいずれかもしくは双方が合法的に制限もしくは禁止されうる労働者について、彼らから利益を擁護する重要な手段を剥奪する代償として、国および地方レベルで、適切な手続き及び機関を設立すること
  (vi) 法制度を改正し、スト権を正当に行使した公務員が重い民法上もしくは刑法上の罰則を科されないようにすること
(c) 委員会は政府と連合に対し、独立行政法人に移管された18000人の従業員が、事前承認なしに、自らの選択に基づく団体を設立あるいは団体に加入することが出来るのかどうか報告するよう要請する。
(d) 委員会は政府に対し、大宇陀町事件の判決を提供するよう要請する。
(e) 委員会は政府に対し、公務部門における団体交渉事項の範囲について、関係労働組合との有意義な協議を持つよう要請する。
(f) 委員会は政府と提訴組合に対し、不当労働行為の救済手続きについて、現行の法令と慣行に関するさらなる情報を提供するよう要請する
(g) 委員会は政府に対し、上記全ての事項の進展について委員会に情報提供を続け、関連法案のコピーを提供するよう要請する。
(h) 委員会は政府に対し、政府はこの件についてILOに技術協力を求めることができるということを想起するよう求める。
(i) 委員会はこの問題の法的側面について、専門家委員会の注意を喚起する。

以上