2. 2003年度91回ILO総会に向けた条約勧告適用委員会提出意見

<2003年第91回ILO総会に向けた条約勧告適用委員会提出意見>

87号条約の適用に関する意見より抜粋

2000年10月2日に送付した情報以降の公務における87号条約の適用状況について以下の意見を表明する。

2、消防職員の団結権の否認について

 連合は、2000年のILO条約勧告適用専門家委員会への年次報告において、消防職員委員会制度の適用状況に関する政府報告に対し、実情把握のもとに、ILO87号条約の適用という観点から次回にコメントするとしてきた。
このため、自治労・全消協(全国消防職員協議会)は、2002年1〜2月に全消防本部を対象として、消防職員委員会制度の運営実態に関する合同調査を実施した。その結果は別添の通りであるが、この調査により、団結権の目的達成と比較した場合の消防職員委員会制度の限界が明らかとなっている。
 特徴的には、消防職員委員会が開催されない消防本部数が相当数出てきており、意見の提出件数も発足当初からかなり減少してきている。
 なお、全消協組織のある消防本部では、全消協組織のない消防本部と比較して、消防職員委員会の意見提出数では1.6倍、審議において改善を要するとされた意見の実施件数では1.3〜1.8倍多いとの結果であることからも、プレユニオンとしての自主組織の有効性と必要性が明確になっており、政府報告にある「消防職員委員会は制度の趣旨に沿って十分円滑に機能している」とは、これら自主組織の存在と活動に支えられていることに他ならない。
 導入後6年を経過した消防職員委員会制度は、その制度的限界もあるが、職場の環境改善や職員の意思疎通が一定程度進められるなど、消防職員に一般公務員並の団結権を保障することへの環境づくりに、少なからず寄与していると認識できる。
 しかしながら、消防職員委員会制度が団体交渉の代替とは成り得ず、消防職員の労働条件を決定する制度としては不十分で問題も多いところであるが、現時点においても政府は、ILO87号条約の趣旨に沿った法改正への検討を進めていない。
 連合は、消防職員委員会が「職員の意思疎通の場」としての有用性はあると認めるものの、本来的な消防職場の改善や民主化に向けての大きな障害は、団結権の否定が根底にあると改めて認識するものである。したがって、消防職員に団結権を保障する環境が次第に整備されているなかで、労使が対等かつ日常的に労働条件を決定する恒常的なシステムづくりのため、団結権を早期に確立する必要があると考える。

4、国営企業職員の賃金交渉について

 国営企業(郵政、林野、印刷、造幣)の賃金は、制度的には団体交渉によって決められるが、これまで団体交渉によって自主的に解決した例はない。団体交渉不調の場合は、中央労働委員会の調停、仲裁によっている。例年、民間の春闘結果を受けて労使交渉を行い、調停、仲裁を経て6月には新年度の賃金が決定されてきたところである。
 2002年の民間の春闘における平均賃金引き上げ結果は、労働省調査で1.66%であった。本年度の国営企業の賃金をめぐる労使交渉の中で、国営企業当局は「本年度の賃金を実質引き下げる必要がある」との回答を示した。このため国営企業6組合はこの回答を拒否し、6月7日中央労働委員会に調停申請を行ったが、8月2日調停は不調に終わった。これは、人件費を抑制しようとする政府の圧力をうけて、中央労働委員会が春闘結果とかけ離れた調停案を示したためである。その後労使の自主交渉を行ったが合意に至らず、国営企業6組合は改めて9月5日中央労働委員会に仲裁申請を行った。
 今日にいたってもなお賃金が決まらないのは、政府の圧力を受けた国営企業当局の当事者能力が欠如しているためである。ちなみに、今年の賃金改定は予算上・資金上の特別の手当を必要とするものでないことから、そもそも国会の議決を要さないものである。
このように、国営企業職員の団体交渉権は形骸化され、87号および98号条約が極めて不適切にしか適用されていないことを示している。 

5、非現業公務員組合の団体交渉および代償措置の問題について

 2002年の公務員賃金に関し、人事院は8月9日、2.03%引き下げる勧告を行った。これを受けて政府は、2.03%引き下げるための給与法改定案を国会に提出する準備を行っている。給与法改正案の内容は、法改正の翌月から新しい(引き下げられた)賃金を支払うことだけでなく、2002年4月分から法改正までの過去に支払われた賃金のうち2.03%分を実質的に返還させる措置を含んでいる。
 人事院勧告制度は、そもそも団体交渉による賃金決定を排除している。また、公務員組合は人事院の勧告、政府の賃金決定の、いずれの決定過程にも参加が保障されていない。実質的に賃金を返還する措置について公務員組合は反対であるが、交渉権が保障されていないため関与できず、この措置は政府が一方的に決定したものである。
 財政状況が厳しいことを理由に、自治体において人事委員会の勧告や人事院の勧告を無視した賃金カットの措置は広がっている。2002年4月1日時点での都道府県の状況は次のとおりである。47都道府県のうち月例給を2%〜7%カットしている都道府県が20、期末手当をカットしている都道府県が5、昇給を実施しない都道府県が5となっている。また、管理職手当をカットしている都道府県は28に及んでいる。このことは、当局の賃金抑制策のもとで人事委員会の勧告制度が機能しなくなったことを示している。なお、人事委員会は47都道府県および15市(大都市)に設置されている。また、この賃金削減の措置は市町村にも大きく広がっている。

(別紙)

消防職員委員会制度の運営実態に関する合同調査結果報告

 全消協・自治労合同調査(2002年1月〜2月実施)による消防職員委員会の運営実態は別表のとおりである。なお、政府調査結果を参考のために右欄に示した。

1、合同調査によると、全消協会員(2002年6月4日現在会員数11,600人)を対象とした意見提出数は、1999年1,335・2000年1,216となっている。また、1999〜2000年における意見提出数は、全消協加盟自主組織のある消防本部においては自主組織のない消防本部に比べて約2倍の差となってあらわれている。これは、自主組織が消防職員委員会への参加に当たってその機能を十分活用し、消防職員委員会開催前における意見の取りまとめや、当局との対話を通じた審議決定事項の履行つまり労働条件の改善・職場環境の民主化が一定程度はかられたためであると考える。
一方未組織消防本部では、以下のような事例が多く報告された。
 (1)審議結果に対して、消防長や首長部局が十分に応える施策を実施しない。
 (2)意見を提出した職員に対して、不当な弾圧や嫌がらせを受ける。
 (3)これらの結果、職員側が萎縮し意見提出がない。

2、自治労・全消協は、消防職員委員会の効果的運営に向けて努力を重ねてきたところであるが、提出意見について全消協・自治労合同調査、政府調査とも約10%程度の低下が見受けられる。自主組織の有無を問わず意見提出が減少する原因として以下の点が考えられる。
 第1点目として、審議意見の結果について具体的措置がとられないことである。
 審議意見が具体的に実現した件数は、自主組織のある130消防においては1999年度333、2000年度233、未組織の352消防においては1999年度494、2000年度475と減少している。
 実現の割合はいずれも30%未満で高くない。自主組織のない消防本部の割合が、自主組織のある消防本部に比べて高いのは、自主組織ですでに実現済みの改善が行われているためと考えられる。一方、政府調査では、1999年で具体的に実現したのは46.3%となっているが、これは、職員と当局の間に具体的実施項目について相互に認定する制度が確立していないことが原因であると考える。
 第2点目として、審議内容と処置結果などについて職員への周知が制度的に確立されていないことである。審議内容と処置結果などについて書面・口頭など周知方法の不統一や行政文書として保管義務がないなど消防職員委員会の運営について相互に検証する機会が不十分であることは、消防職員委員会の運営を形骸化させかねないと考える。
 第3点目として、消防職員委員会事務局担当職員が、明確な基準のないまま審議対象事項としての適否を判断するため、消防職員委員会の公正・客観的な運営について検証する機会が保障されていないことである。また、消防職員委員会で審議を求めても審議対象項目でないため却下されること、提出意見に記名を求められる結果、意見提出について自主規制の傾向にあるとの指摘があった。全国的には過去審議された意見については審議対象外とされるが、全消協加盟の消防本部では、再度審議するよう働きかけたところ、全ての意見が審議されたとの事例があったことを特記しておく。
 第4点目として、消防職員委員会の審議意見について消防職員委員会開催前に各委員に対して調査権限が負託されないなど、十分な審議を保障する機会が確立されていないことである。その弊害として、消防職員委員会が開催されない職場数が、全消協加盟消防では1999年5・2000年3である一方、未組織消防では1999年99・2000年90との差となって表れている。なお、全消協加盟の消防本部では、各消防職員の意見や要望を取りまとめるため、消防職員委員会開催前に十分な調査など準備を行っている。

(別表)消防職員委員会制度の運営実態に関する合同調査結果集計

  全消協加盟自主組織のある消防本部(130本部を調査) 自主組織のない消防本部(352本部を調査)   (参考)政府統計(各年4月1日現在)
消防職員委員会
1999年 2000年 1999年 2000年   1999年 2000年
開催消防本部数/消防本部数 125/130 127/130 253/352 262/352   654/911 665/906
非開催本部数/消防本部数 5/130 3/130 99/352 90/352   257/911 241/906
(1)勤務条件・厚生福利関係で審議した数
710 614 750 658   2,362 2,272
(2)被服・装備品関係で審議した数 252 229 484 499   1,367 1,456
(3)設備・機械器具・その他施設関係で審議した数
284

228

356 316   1,297 1,303
(4)審議対象外とされた意見数%=(4)/(5)

89

6.7%

145

11.9%

119

7.0%

136

8.5%

 

531

9.6%

420

7.7%

(5) (1)〜(4)の合計 1,335 1,216 1,709 1,609   5,557 5,451
(6)実際改善された数%=(6)/(5)

333

24.9%

233

19.2%

494

28.9%

475

29.5%

 

2,575

46.3%

公表なし